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暫くは順調だったが、急にモンスターが足を止めた。いくら靴下を振っても、もう興味を示さない。別な方向へ鼻をヒクつかせて迷いない足取りで歩き始める。
まさかと思いモンスターの向かう方向へ先回りすると、湯上がりの娘がとぼとぼと歩いていた。肌着を帽子のようにかぶり、布でくくっている。靴下は両方とも履いておらず、ポシェットから片方の靴下がはみ出していた。
再びモンスターの所へ行くと、間違いなく娘の方向に近づいていた。完全に気づかれている。何とか注意を反らせないかと鼻先近くまで靴下を持っていったが、足を止める気配は一向にない。娘に近づくことしか考えてない。
もう遠ざけるのは無理なようだ。ならばもう、賭けるしかない。
モンスターの進む道が二手に分かれる。どちらへ進もうか迷う仕草を見せたので、一方の道の天井を引っ掻いてパラパラと砂ぼこりを落としてみた。警戒心の強いモンスターは反対の道へ進んだ。娘へ向かう順路なら多少の誘導は可能なようだ。
次に娘の進む通路を先回りし、分岐点の進んで欲しい道に片手のひらサイズの鱗を置いた。金持ちでも滅多にお目にかかれないキラキラな龍の鱗だ。案の定娘は飛び付き大事そうにポシェットにしまうと、鱗の置かれていた道を何の疑いもなくそのまま進んでいった。
それからモンスターと娘の所を交互に行き来しながら互いの進行方向を調整した。娘の方は宝石の欠片や古いコインを置くだけで簡単だったが、モンスターの方は時々無視されたり逆に進まれてしまったりと大変だった。とは言え概ね順調だ。
最初に辿り着いたのは娘だった。沢山の通路が集結するドーム状の大空間、急に音が響くようになって驚いたのか娘が足を止める。ランタンではこの場所のほんの一部しか照らせないから娘にはここがどうなっているのか分からないのだ。
意を決して再び歩き出そうとするのを、目の前に靴下の片割れを落として止める。もう少しそこでじっとしていなくてはならないのだ。
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