幼女、帰宅中。

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 反対側からモンスターも大空間に入ってきた。はっきりと獲物を捉えたモンスターが加速する。強靭な足で高く跳ね飛び、大砲のように娘に向かって突っ込んだ。  大きな口が娘にぶつかる寸前、モンスターが何かに引っ張られて止まる。  ここには昔、蜘蛛がいた。それほど大きな蜘蛛ではなかったが、とても丈夫な糸を吐く蜘蛛が沢山いた。その糸のあまりの丈夫さと美しさが人間達の間で高く評価され過ぎて、みんな捕獲されてしまったけど蜘蛛の糸はまだここに残っている。  モンスターは体に絡み付いた糸を剥がそうと必死にもがいていた。しかし糸はなかなかちぎれもほどけもしなかった。娘は、驚いた拍子についた尻もちの体勢のままそれを見ている。  モンスターが体をよじり、糸が一つプツンと切れる。娘はまだ逃げない。どうした? この糸だって、いつまでも持つ訳ではないんだぞ。まさか怪我でもしたのか? 「お腹すいてるの?」  娘が呑気な声で言う。 「これあげる。ちょっと変な臭いするけど」  ポシェットをゴソゴソと漁ると、集めた宝石の欠片がキラキラ零れ落ちた。気にせず紙で包まれたそれを取り出し、娘はすぐに包みを開いた。強烈な洋酒の臭いが漂ってくる。  フルーツケーキだった。洋酒でひったひたのフルーツケーキだった。誰だ、こんなものを幼子に渡した奴は。  娘は躊躇なくフルーツケーキをモンスターの口に放り込んだ。反射的にそれを飲み込んでしまったモンスターは、洋酒に酔ったのか衝撃的な味に心折れたのか分からないが、しょんぼり大人しくなってしまった。 「お腹いっぱいになった? じゃあ私帰るね。バイバイワンちゃん」  無邪気に手を振る娘を、モンスターは何とも言えない表情で見送っていた。  それからは早いものだった。要所要所に宝石の欠片や鱗や、なんか格好いい爪を置いておけば餌に釣られて罠にはまる鳩のように簡単に誘導できた。地上の出入口まであと少し。
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