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あなたを消した理由
どうして……どうし、て?
何度繰り返しても答えてはくれなかった。
どれだけ問いかけても、話をしようとしても無駄だった。
最後には悲しくて、悔しくて涙も滲んだ。
「だったらいいじゃない!」
そう言って強引に自分を押し通せば、いつもあなたは必ず首を縦に振った。
だから、あなたと居ると口癖のように必ず吐いてでた。
先に惚れたのはあなたの方だもの、あなたは私を手に入れることができたのだもの、それだけで満足なのだと信じていた。
寡黙で面白味のない、気弱な人。
誰とでも直ぐに打ち解けられる私とは正反対な人。
私に飽きられないために頑張らなきゃいけないあなたの傍で、常に笑顔を振り撒き居てあげるのだから、私の望むことは全て叶えてくれなきゃダメだったわ。
そりゃあ、少しは私もあなたに興味があったもの、多くは望まなかったつもりよ。
どれだけの勇気を出して告白してくれたのか。
嬉しかったもの、あなたの隣を歩くのは私でなければいけないわ。
「好きなら許してよ!当然でしょ?!」
どんなワガママも、どんな無茶振りも、私があなたの傍にいるためだもの、笑って許してくれるのがあなたの役割よね?
だって、あなたは私と居るだけで周りに羨まれるのだもの。
「どうして……?」
だから、別れるはずないわ。
だって、あなたには私しかいないじゃない。
あなたが望んだのよ?
私は望まれたからあなたのものになったのに……縋るわけじゃないのよ?
ただ、あなたに触れようとしていただけなの。
なのに、薄らいでいく視界に写るあなたは伸ばした手に嫌悪の顔をして再び両腕を振りあげたわね。
鈍い音と共に脳を揺さぶる振動───生温い感触が伝い広がっていく。
床に打ち付けた頭が一度だけ、ゴムボールの如く跳ねる───あなたの慌てた足音が床を通じて耳に響いた。
霞んでいたあなたが、闇にのまれて消えた。
「お、俺は、悪くない!おま、お前が、別れてくれないからっ!いつまでも彼女ヅラして付き纏うからだっ!」
劈く耳鳴りと自分の鼓動の中にあなたの声が混ざった。
自分の涙が温かいなんて、知らなかった。
私のこと、誰よりも好きだって言ってたクセに……他の女にうつつを抜かすなんて、酷い人。
なぜか怒りより悲しさが満ちていく。
ああ、こうしてあなたは私の中から消えていくのね。
私はあなたの中に居続けるのに───
〜fin〜
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