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「その宿屋で生まれた男の子が、この養成学校の創立者だよ」
ボクの話を食い入るように聞いていた若者たちは、ほぅ……と感嘆のため息を吐いた。
「君たちも知っての通り、現在は、世界中全ての子どもたちにプレゼントを届けている。お金持ちの子どもにも、貧しい家の子どもにも、分け隔てなくだ」
契約制度は廃止された。子どもの幸せを願う世界中の大人たちが、「サンタクロース」の人材育成とプレゼントの費用を担ってくれている。
「さぁ、君たちも“赤鼻”を目指して、しっかり学び、身体を鍛えてくれたまえよ」
この「ルドルフ育成棟」で訓練を終えた若いトナカイたちは、卒業試験に合格すると、赤鼻のランプがもらえる。ボクのおじいさんの名前「ルドルフ」は、「サンタクロースのプレゼントを運ぶトナカイ」の役職名になった。国内外のトナカイたちが「ルドルフ」になることに憧れている。ボクもまた、引退するまでは「ルドルフ」の一頭だった。
「起立ーッ! 礼ッ! ありがとうございましたぁ!」
教室を出ると、渡り廊下を歩く老人が見えた。本校の若者たちが憧れるレッド・ユニフォームをビシッと着こなしている。ちょうど「ニコラス育成棟」で講義を終えたボクの相棒――元「ニコラス」だ。
「やぁ、お疲れさん」
「はい、お疲れ様です」
「今年の新入生はどうかね?」
「ふふふ。みんなキラキラしてますよ。そちらは?」
「うん、こっちも同じだ。初雪が楽しみだねぇ」
これから約半年の雪のない期間、新入生たちは座学と基礎体力作りに励むことになる。最初の試験が初雪のあと――ソリを装着しての初飛行となる。ここで合格しなければ、トナカイは故郷に戻される。同様に人間の方も、飛行適性試験がある。どちらも新入生の3割が涙をのむ難関だ。
「一組でも多くの『サンタクロース』が巣立って欲しいものだねぇ」
ここでは、人間の「ニコラス」とトナカイの「ルドルフ」のペアを「サンタクロース」と呼ぶ。ボクたちは中庭に建つ、初代「サンタクロース」の銅像に向かって、敬愛の念を込めて一礼した。
【了】
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