世界で初めての「サンタクロース」

4/4
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「その宿屋で生まれた男の子が、この養成学校の創立者だよ」  ボクの話を食い入るように聞いていた若者たちは、ほぅ……と感嘆のため息を吐いた。 「君たちも知っての通り、現在は、世界中全ての子どもたちにプレゼントを届けている。お金持ちの子どもにも、貧しい家の子どもにも、分け隔てなくだ」  契約制度は廃止された。子どもの幸せを願う世界中の大人たちが、「サンタクロース」の人材育成とプレゼントの費用を担ってくれている。 「さぁ、君たちも“赤鼻”を目指して、しっかり学び、身体を鍛えてくれたまえよ」  この「ルドルフ育成棟」で訓練を終えた若いトナカイたちは、卒業試験に合格すると、赤鼻のランプ(卒業証書)がもらえる。ボクのおじいさんの名前「ルドルフ」は、「サンタクロースのプレゼントを運ぶトナカイ」の役職名になった。国内外のトナカイたちが「ルドルフ」になることに憧れている。ボクもまた、引退するまでは「ルドルフ」の一頭(ひとり)だった。 「起立ーッ! 礼ッ! ありがとうございましたぁ!」  教室を出ると、渡り廊下を歩く老人が見えた。本校の若者たちが憧れるレッド・ユニフォームをビシッと着こなしている。ちょうど「ニコラス育成棟」で講義を終えたボクの相棒――元「ニコラス」だ。 「やぁ、お疲れさん」 「はい、お疲れ様です」 「今年の新入生はどうかね?」 「ふふふ。みんなキラキラしてますよ。そちらは?」 「うん、こっちも同じだ。初雪が楽しみだねぇ」  これから約半年の雪のない期間、新入生たちは座学と基礎体力作りに励むことになる。最初の試験が初雪のあと――ソリを装着しての初飛行となる。ここで合格しなければ、トナカイは故郷に戻される。同様に人間の方も、飛行適性試験がある。どちらも新入生の3割が涙をのむ難関だ。 「一組でも多くの『サンタクロース』が巣立って欲しいものだねぇ」  ここでは、人間の「ニコラス」とトナカイの「ルドルフ」のペアを「サンタクロース」と呼ぶ。ボクたちは中庭に建つ、初代「サンタクロース」の銅像に向かって、敬愛の念を込めて一礼した。 【了】
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!