世界で初めての「サンタクロース」

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「ひとつ、あまりましたね」  ソリに山盛りだった荷物袋は、ペシャンコになった。 「そうだなぁ……」  シンシンと綿雪が降り続く雲の下を走りながら、そんな会話を交わしていたときだった。ルドルフの鼻先のランプが赤く点滅した。 「この辺りに集落はないけれど……」  モミの林を抜けると、小さな湖があった。その近くにポツンと屋根が見える。 「あそこです、ニコラスさん」 「行ってみよう」  周囲を雪に埋もれた建物は、どうやら宿屋だった。もう朝が近いというのに、煙突からはモクモクと煙が出ていて、2階の角にある窓から灯りが漏れている。カーテンの隙間から室内を覗くと、大人たちがバタバタと忙しなく動き回っていた。 「もっとお湯を沸かして!」 「うーっ!」 「ほら、頑張るのよ!」 「ううーっ!!」  さらに窓に顔を寄せると、体格のいいおばさんが、ベッドに横たわる若い女性に声をかけている。女性は大粒の汗を流していて、とても苦しそうだ。 「お産だ……」  ニコラスさんがポツリと呟いた。すると、女性の視線がこちらに向いた。彼女はハッと目を見開いて、大声で叫んだ。 「うあぁーっ!!」 「え? あらっ!」 「ぅ、んぎゃーっ!!」  ビックリしているルドルフたちの目の前で、その赤ちゃんは元気な産声を上げた。 「まぁまぁ! 元気な男の子ですよ!」 「あ、あぁ……!」  真っ白な布に包まれた赤ちゃんを胸に抱き、若い女性は笑顔を見せた。  奥のドアが勢いよく開き、ご主人と思われる青年が飛び込んできた。 「よく頑張ったね! なんて可愛いんだ!」  幸せそうな2人の様子に、ルドルフたちも笑顔になった。そのとき。 「あなた、あそこ……」  若い女性が、思い出したように窓を――ルドルフたちの方を指差した。 「ここは2階だよ」 「でも、あそこに……!」  青年は奥方の元を離れ、強張った表情で近付いてくると、迷わずに窓を開けた。 「君たちは――」  ニコラスさんの制服を見て、青年は戸惑い、言葉を失っている。 「お誕生、おめでとうございます。ささやかですが……サンタクロースから息子さんに」  ニコラスさんは飛びきりの笑顔で、手にしていた最後のプレゼントを差し出した。それは、木彫りのトナカイの人形だった。 「僕は……契約をしていないのに、いいのかな」  きっと青年は、お金持ちの生まれなんだろう。「サンタクロース」が契約者限定でプレゼントを届けることを知っていた。 「もちろん。サンタクロースは、世界中、全ての子どもたちを祝福します」 「ありがとう。僕たちは、親の反対を押し切って新しい土地へ向かうんだ。誰にも祝福されないと思っていたけれど……」  人形を受け取ると、彼は涙を浮かべた。 「ありがとう……ありがとう……!」  贈られた赤ちゃんにはまだ見えないけれど、自分と同じ“トナカイ”がこの世で最初のプレゼントになれたことがルドルフには本当に嬉しかった。  ニコラスさんとルドルフは、宿屋から飛び立つと雲の上に出た。夜は既に遠ざかり、クリスマスの太陽が2人の濡れた身体を温める。明るさの中で見ると、2人ともあちこち煤けて黒ずんでいた。 「こんなナリでも、サンタクロースだと信じてもらえて良かったよ」  ニコラスさんは、カラカラ笑う。すっかり軽くなったソリを引くルドルフも、心は晴れやかで、弾むような足取りで帰路を駆けていった。
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