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ジャックは何者なのか。
なぜ猟奇的な殺人を犯すのか。
すでにホワイトチャペルではジャックに便乗したと思われるものも含めて十数件の事件が起きている。
ロンドン警視庁も躍起になって捜査しているが、いまもなお逮捕には至っておらず、ジャックは依然として霧の中である。住人たちの警戒感も高くなっているし、人捜しには最悪のタイミングだ。
しかし――。
いまはそんな泣き言を言っている場合ではない。
一刻も早くこのルアンナという女性を見つけ出さなければならないのだ。
これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかない――。
キョウジは写真を手帳に挟み、内ポケットにしまい込んだ。
ちょうど向こうから歩いてきた労働者風の男に声を掛ける。
「あの、イーストエンドへ行くにはこちらで合ってますか」
男はつまらなさそうな顔で、ああと言うと歩みも止めずに行ってしまった。
もう何日も通っているのだからいいかげん覚えてもいいはずなのだが、なぜか一度で目的地に着いたためしがない。
「よし」
キョウジは小さく気合いを入れると、イーストエンドに向けて力強く歩き出した。
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