霧の都

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 トラファルガー広場を越え、テムズ川の河畔を歩く。  霧こそ出ていないが、鈍色の空と茶色に澱んだ川面を眺めながら歩くのは、見慣れてしまった風景とはいえあまり気持ちのいいものではない。  対岸にある工業地帯の煙突は今日も競うように黒煙を吐き出しているし、いまは気温が低いから気にならないが、夏場などの暑い日には川が発する悪臭が周辺一帯を不快な場所へと変えてしまう。  まったく――。  我ながらずいぶんネガティブなものだと思う。  気持ちが晴れないのはまわりの風景のせいばかりではない。  キョウジは上着の内ポケットから手帳を取り出し、中から写真を一枚取り出した。  《探索者(サーチャー)》の能力によって念写されたものだ。  写真には若い女性が写っていた。  派手な化粧をしているが、まだ二十歳そこそこといったところだろうか。首のマフラーの柄に浮かんだ文字からルアンナ・アーテスという名前であることがわかる。  背景には――古びた小さな教会が写っていた。  イーストエンドにある聖ボトルフ教会だ。
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