貧民街

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 人を捜すことにおいて貧民街ほど捜しづらい場所はない。  人の流入は多いし、誰がどこに住んでいるかもはっきりしない。  それに――。  ルアンナというこの女性はおそらく娼婦だろう。  教義上、ヴァチカンは娼婦の生業(なりわい)を認めていない。世の中の秩序を保つためには当然のことだと思う。  矛盾するようだが、キョウジ個人としては娼婦が苦手というだけで認めていないわけではない。身体を売って報酬を得ると言うことは決して誉められるものではないと思う。しかし、だからと言って悪かと言われるとそうとも言い切れない。  娼婦はそのほとんどが貧しい身の上の者たちだ。なかには好んで娼婦になった者もいるかもしれないが、大多数の娼婦は生きていくために選択せざるを得なかった者たちである。強盗など平気で人の物を奪う輩に比べれば職業意識のある娼婦のほうがまだ真っ当なのではないかとも思う。
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