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【1.王宮中の噂の結婚】
ジェイク・フォールヒル公爵令息とテレンシア・ヴォルカー侯爵令嬢の結婚は、王宮中の貴族の話題を攫った。
そもそもフォールヒル公爵は国王の信頼が厚く宰相を任されるような家柄だ。そしてその宰相家のジェイク殿と言えば、金髪巻き毛に淡く澄んだブルーの瞳、すらりとした長身に柔らかい身のこなし、と王宮中の令嬢たちの視線を一人で集めてしまうほどの人気者だった。
「ははは、父が宰相なんかやっていると、とりわけ誤解されがちで困るよ。僕はいたって普通でしかないんだけどな」
「明るい未来のある国がいいよね。僕が辛気臭いのが苦手だから、とにかく皆には笑顔でいてもらいたいんだよ」
「僕は優しい奥さんとあったかい家庭を持つのが理想なんだ。子どもは絶対娘が欲しい。大好きな奥さんに似ていたりしたら、溺愛確定だよね」
気さくな軽口に人懐っこい笑顔。それでいて優秀な取り巻きに囲まれた彼は、この王宮の若者の出世頭として、誰からも一目置かれていた。
そんな彼が結婚相手に選んだのは、まっすぐな黒髪に知的な顔立ちのテレンシア・ヴォルカー侯爵令嬢だった。
こちらの令嬢は、ジェイク殿に見出されるまでは浮いた話の一つもない至って地味な存在だった。実際ジェイク殿が親し気にテレンシア嬢の手を取りパーティにエスコートした時、王宮中の令嬢が「あれは誰?」と身元確認から始まったのだ。
そこからジェイク殿と真剣交際となって、一気に時の人となったのだ、テレンシア嬢は。
二人の出会いは旧市街の神殿跡地で催された『祈りのコンサート』だった。
旧市街保存の団体に出資していたヴォルカー家に、神殿跡地の関係者からコンサートへのゲスト出演を依頼されたのだった。
素人ながらピアノだけは好きで続けてきたテレンシア嬢は『余興として』市民と交流を持てることを喜んだ。
そこへお祭り大好きのジェイク殿が、コンサートのことを聞きつけ、出資してやるから『余興』とやらに自分も出せと軽く言ったのだった。
サロンで楽しむくらいのバイオリンの腕前を持つジェイク殿は、そのままテレンシア嬢のピアノ伴奏で合奏することになった。
市民との合奏を楽しみにしていたテレンシア嬢なので、相手がスポンサー枠のジェイク殿となったと聞き多少がっかりした。
しかし練習で合わせてみると、意外と息ぴったりでお互い気持ちよく演奏できた。それがものすごく心地よかったのである。
二人は思いの外真面目に取り組むことになり、顔を合わせるたびにどんどん親しくなった。
コンサート本番は余興とはいえ好評だったし、その後二人が真剣交際に入ると、王宮中の貴族たちが「神が引き合わせたような」「神殿で芽生えた聖なる恋」と噂し合った。
やがてジェイク殿はテレンシア嬢に跪いてプロポーズし、二人は結婚することになったのだった。
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