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1、僕を守る赤髪騎士
「お怪我はありませんか、タビーさま」
幅広の両手剣を振り下ろし、異形の魔物を一瞬で片付けた赤髪の騎士。黒い軍服の上から羽織った赤いマントをなびかせながら、僕の元に歩み寄ってくる。
何度も、何度も見た光景。
180センチは軽く超えていそうな長身、威圧感がある雰囲気。彼はいつも少し怒ったような顔をしているけれど、僕を見つめるエメラルドの瞳は優しい色をしている。
「ありがとう、アルド」
僕の口が勝手に動き、暗い洞窟を照らす金の宝玉のついたロッドを下ろす。
黒いローブを着た、黒髪の魔法使い。
たしかに僕のはずなのに、自分の意思では手も足も口も動かせない。
「ご無事でなによりです。お一人で先に行かないでください」
僕がアルドと呼んだ赤髪の彼は、たぶん10センチは背の低い僕を抱きしめ、僕の肩に顔を寄せる。
「心配かけてごめんね」
困ったように笑い、アルドの短めの赤い髪を撫でる僕。
僕を抱きしめるアルドの腕の力がますます強くなる。
片手ではとても持てなさそうな大剣を扱う彼の腕はよく鍛えられていて、僕の生白く細い腕よりもずっと太く、硬かった。
うわぁ。なぜか僕はフツーに受け入れてるし、本当ならもう慣れっこのはずなのに、どう考えても慣れそうにない。
「全くです」
アルドは耳の底に響くような深みのある低い声で、僕に囁く。
「俺がどれだけあなたを想っているか、全く分かってない」
ほとんど抑揚がないながらに、わずかに感情のこもったアルドの声。
何の特徴もない黒髪、黒目が少し小さい平坦な顔。平々凡々で地味な僕を、アルドはなぜか溺愛しているみたいだ。
「そんなことないよ」
苦笑しながら、アルドをなだめる僕。
「だったら、証明してください」
「どうやって証明したらいい?」
「決まっているでしょう」
アルドが僕の身体を離し、至近距離で僕を見つめる。
あああああ、やっぱりダメだ。
アルドの筋肉質な腕で抱きしめられるのも、低音の中にもほんの少しだけ甘みがある声で囁かれるのも、碧色の澄んだ瞳で見つめられるのも。全部ドキドキし過ぎて、心臓が破裂しそうだよ。
僕の動揺をよそに、アルドが顔を近づけてくる。
相変わらず僕の意思を無視して、瞳を閉じる僕。
アルドの整った顔がどんどん近づいてきて、唇が触れそうになる。
わあああぁぁぁ〜!!!
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