恋愛にはならない

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 着いた先は私がたまに一人で入る居酒屋だった。仕事帰りに一杯やるには丁度良くて、意外と気に入っているお店だった。大将とも顔なじみだ。 「お、梢ちゃんが誰か連れてくるなんて珍しいね」  カウンターに座ると大将がそう言ってお冷とおしぼりを出してくれた。 「大学からの友達。大将、私ハイボールね」 「俺はビールで。これからもたまに来るかもしれないんでよろしくです」  直人がそう言うと大将が「はいよ!ありがたいねぇ」と言って中に入っていった。 「たまに来るって?」  私が驚いて聞くと、 「無理して電車なんか乗らなくていいって。大宮で飲むんじゃなくてこれからはこっちでいいじゃん。職場だってバス通勤だろ?駅付近で飲んでんのは乗り換えか通り道だからってだけなんじゃねぇの」 「そうだけど…」 「いつも大宮まで来させてたのが逆に申し訳なかったよ。そんなん先に言えよなー」  そんなやり取りをしているうちに大将がビールとハイボールを持ってきた。 「お疲れ」  二人でそう言って、グラスを合わせるともなしに持ち上げた。今日は午前中から出掛けていたので、たしかにちょっと疲れた。買い物というのは意外と体力を使う。 「それにしてもさ、あんまり東京まで出ないとはいえ、ちょっと買いすぎじゃね?」  電車では可哀想に思ったのか、直人が荷物を半分持ってくれていた。全部じゃなくて半分ってところがいいなと思った。彼氏ではない気遣いのようで。 「買い物自体そんなにしないから、たまにはと思って。まぁ、普段は飲み代にばっかり使ってるからね。たまには自分へのご褒美にいいでしょ」 「基本倹約家だもんなぁ、梢は。俺も見習わなきゃな」 「直人だってそんなに使わないでしょ」 「いやそれが、今バイクに凝ってて結構使っちゃってんだよね」  私たちの共通点はもう一つ。結婚願望が乏しいこと。なくはないのだけれど、したいわけでもなかった。だから直人は将来設計というのをあまり意識していないのだという。私は老後一人で生きていくためにもお金は貯めておかないとなんて考えているので、そういう意味では真逆の性格と言える。  すると、隣の席で話す老齢の男女の会話が聞こえてきた。 「主人が亡くなってからめっきり外に出なくなってたから、あなたが誘ってくれて有り難いわ」  その言葉に、なぜか私はついそちらをちらっと見てしまった。六十代くらいだろうか。二人は楽しそうに笑っていた。
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