星の川の風龍

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真っ暗闇の静かな世界で、薄ぼんやりと淡い光を放つ川がある。 とても静かな場所だった。 銀色の星くずが、キラキラと流れ落ちてゆく。上流から流されてきた岩や隕石の残骸たちは、水に磨耗し細かくサラサラの砂になって堆積し、いつのまにか川のほとりを形作ってゆく。 赤い服の少女が、一人砂の上にしゃがみこんでいた。 ————星サイダーお化け、ドクロとんぼ、あんまり濃厚なので海を超えて香るコーヒーアイス。 少女は細い指で、何かの絵を描いていた。 くねくねと、細い線が何本も引かれる。小さな生き物のような不思議な図が浮かび上がり、その絵は仲間を増やしながら四方へと蜘蛛の巣状に範囲を広げてゆく。 一陣の突風が吹き、銀色の砂くずが噴き上げられた。 赤い服の少女は、あっと驚いたように立ち尽くす。目を瞑って風をやり過ごした時には、全ての絵がまっさらになって消えていた。 「…………。」 泣くでもなく。悔しがるでもなく。 少女はただぼんやりと、消えてしまった絵の跡地を見つめていた。————いや、違う。 少女の目が見つめているのは、銀の砂地ではなく『虚空』。 『風の通り道』を目で追い、その『声』に耳を澄ませている。 “……今晩は、みっちゃん。遊びに来ていたのですね。会えて嬉しいですよ。” さらんさらんと鈴の鳴るような響きの、その声に。 みっちゃんと呼ばれた少女は、同じように心の声を紡いで静かに応えた。 “……ひどいよ…星の川の風龍さま。” ”おや。お絵描きの途中でしたか?” “…わかってるなら消さないで。“ ”相変わらずの無茶な注文ですねえ。まあ、そういう点がみっちゃんのいいところでもあるのですが。“ 星の川の風龍さま。 まごうことなき風の神様と、赤い服の少女はお喋りをしているのだった。 ふふふ、と笑う風龍に、少女は小さく目を伏せた。 しばらくの間、沈黙が続く。風龍は何かを感じたのか、少し心配そうに少女の様子を窺った。 “あの……その、御免なさい。みっちゃん……大丈夫ですか?” “………。” “あわわ!本気で怒ってます……?えっと、その!み、みっちゃんの好きそうな誰かの落とし物、風に乗せて運んであげますから……その、ご機嫌なおして欲しいです……っ。” “安心して、風龍さま。私は初めから怒ってないよ。” “あっ……はい。” 少女は、ため息をつくように息を吐いた。 白く柔らかい幼い手が、淡い銀に発光する砂を、お椀のように掬う。隙間からサラサラとこぼして、もう一度掬う。ひんやり冷たい砂に触れて何気なく遊びながら、少女は再び風龍に語りかけた。
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