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家に帰ると、まずはポチの足を綺麗にするところから始まる。それから、トイレに失敗した時は下半身も掃除しなければいけない。今日は外でトイレをしなかったのでその必要はないが、それはそれとして我慢していないか心配である。
部屋に上がれば、次はポチの餌の時間だ。ポチの名前を書いた、紫色の平皿にカリカリフードを開けていく。ざらざらざらざらざら、という音が響き渡った。犬にとってはきっと美味しそうな音であるはずだ。そのはずなのだが。
「ポチ……お腹すいてるんでしょ?早く食べなって」
痩せた犬は、私が皿を前にしてもなかなか食べようとはしない。お腹がぐうぐう鳴ってるし、減っていないとは思えないのだが。
それともまた、えり好みしてくるつもりなのか。そう思った時だ。
「……お腹がすいた」
低い、声がした。
「お腹、お腹すいたんだ。頼む、頼むよう……もう、犬の餌じゃなくて、まともな飯をくれよう。ほ、ホームレスで、カラスに襲われたのを助けてくれたのは感謝してる。で、でも、だからって犬の餌ばっかりじゃ……」
「ねえ」
ガサガサの唇から漏れ出る、掠れた声。私はポチを睨みつけて言った。
「犬は、喋らないんだけど?……何回教えればわかるの。犬は、喋らないのよ。そうでしょう?」
「!!」
ポチは私の顔を見て、ガタガタと体を震わせた。そして、引き攣れたような悲鳴を上げる。まったくもう、そんなバケモノでも見るような眼をしなくてもいいのに。
美人なキャバクラ嬢に、ペットとして飼ってもらって、一体何が不満なのだろう――この大型犬は。ドッグフードだって毎日高級なものを用意しているのに。
「食べないの?」
私が繰り返すと、ポチはだらだらと涙を流しながら、わおん、と鳴いた。そして、皿に顔を埋めてがつがつと食べ始める。
やっぱりこの子は、犬の幼稚園に入れた方がいいかもしれない。他の犬や人と仲良くできるようになり、ちゃんと“自分の”トイレで用を足せるようになってくれなければ困る。
私はスマホを取り出すと、早速検索をかけたのだった。
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