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動物に優しい町。そううたい文句にしているだけあって、この町は動物を飼っている人が多い。
玄関を出ると、今日も行く先々で色々な“お散歩”に出くわした。
「……すご」
ちんまりした子猫が、大人しくリードをつけられて飼い主に散歩されている。尖った耳、真っ白な毛がふわふわの可愛らしい子だ。猫というのは大抵、人がリードをつけたところで言うことなんぞ聞かないものと思っていたが、案外そうでもないらしい。
しかも、一緒に散歩しているのがウサギである。二匹は仲良しなのか、てとてとと並んで女性に散歩されていた。
「見てよポチ。あの子たちすっごく可愛いし、イイコだよ。ポチも見習わないと!」
「わう……」
「そこ、しょっぱい顔しない。お散歩ってのは、本来ああやってやるもんなんだから。もっとさくさく歩かないと運動にならないよ。足腰弱ってきてるなら尚更。こんなゆっくり歩いてたんじゃ駄目だって」
「ばう……」
うっさいな、と言わんばかりに顔を逸らすポチ。まったくもう、と私は呆れてしまう。そもそも、この子は保護犬だった。カラスに襲われていたところを私が自らレスキューしたのである。そう考えると、他の動物に恐怖心があるのもわからないではない。
だからといって、そもそも散歩に行きたがらないのもどうかとは思うし、行ったところでアパートの敷地の外をぐるっと一周だけして帰ろうとするのもいかがなものかと思う。それ以外のところに連れていこうとすると、途端に“拒否犬”の発動である。地面に踏ん張って、テコでも動かない。私が“帰るよ”と言って家の方に歩きださない限りは。
「あれ、サキコさんじゃないですか!」
「あ」
聞きなれた声に顔を上げると、向こうから歩いてくる女性の姿が。同じキャバクラで働いている、後輩のミナミだった。彼女もどうやら犬の散歩に来たらしい。リードで繋がれているのは、ふわふわもこもこ、こげ茶色の可愛らしいトイプードルである。
「こんにちはミナミちゃん。ミナミちゃん犬飼ってたの?知らなかった」
「ええ、まあ。ほら、ご挨拶して、リク。私が世話になってる先輩なんだから」
「きゃんっ!」
おお、なんと愛想の良いわんちゃんだこと。私は感激してしまう。トイプードルのリクくんは、二本足で立ってご挨拶してくれた。前足を、こう、招き猫が招くようにかいかいかい!と動かして歓迎してくれる。まるでダンスでも踊っているかのようで、とても可愛らしい。癒される、とはまさにこのことか。
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