今晩の飯がない!

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今晩の飯がない!

「娘たちよ。大変なことになった」  ずずん、と。ゲンドウポーズで椅子に座っている父。長女は嫌な予感がした。父がこうやってシリアスぶっている時は、本当にろくなことが起きないと知っていたからである。  そして案の定爆弾が投下された。 「今晩の飯が、ない」 「は?」 「母さんが急遽、叔母さんに誘われて飲み会に行ってしまった。というわけで今晩、我々の飯を作る人がいない」 「は?」 「はああ?」 「ハアアアアアアアアアア!?」  ああ、ハアハア三段活用。長女は次女、三女と共に思わず叫んでしまっていた。  だってそうだろう。  この四人の中に、掃除や洗濯ができる人間はいる。しかし、料理ができる人間が一人もいないのだ。むしろ、この四人が四人とも、母からキッチン出禁を言い渡されている者ばかりである。 「え、え?どうすんのこれ?」  長女は次女、三女を振り返って言った。 「わ、私達の誰かに、料理をしろと?」  瞬間、次女が派手に首を横に振った。それはもう、ちぎれんばかりに。 「むりむりむりむりむりむりむり!アタシにできるわけがねえ!前に住んでいた家でコンロを爆破させて天井に穴をあけ、引っ越しを余儀なくさせた女だぜアタシ!」  三女も同じくぶんぶんぶんぶんと首を横に振った。回転しそうな勢いだ。 「むりむりむりむりむりむりむり!わたしにできるわけないわ!調理実習で、キャベツと一緒に自分の手を切り刻んであわや救急車を呼ぶことになった女なのよわたしは!」  そして、これもお約束かと長女も首を振っておく。 「むりむりむりむりむりむりむり!私にもできるわけがない。砂糖と塩を間違えるどころか重曹を間違えて入れるってことを十回以上やらかしている私に!」  最後に、父ががっくりと首を垂れた。 「父さんにも無理無理無理の無理だ。……電子レンジを過去に五回も爆破してるんだぞ」  ようするに。  このメンバー、誰も彼もが前科ありすぎなのである。カップ麺くらいなら作れそうと思われるかもしれないが、過去カップ麺を作ろうとした結果キッチンを娘三人そろって泡まみれにしたことがあるのだ。――なんでそうなったのかは自分達にもわからない。  なお、父は四十八歳、長女ニ十五歳、次女二十歳、三女十六歳である。長女は社会人、次女は大学生、三女は高校生だ。   「そして残念なお知らせだ娘たちよ。我々の生命線だった、ご近所唯一のコンビニは半月前に潰れた」 「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」 「そして一番近いスーパーはよりにもよって本日定休日だ」 「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!いやあああああああああああお腹すいたあああああああああ!!死ぬううううううううううううううううううううううううう!!」  三女がヘッドバンキングしながら叫んだ。いかんせん、誰も彼も料理できないくせに食いしん坊なのだ。このままでは死ぬ。死んでしまう。ということで。 「かくなる上は最終手段!」  私はスマホを取り出した。ウーバーイーツでも頼めればいいのだが、このド田舎、まともに来てくれないことは過去に実証済みである。  というわけで。 「助けてえ、シュンくんんんんんんんんんんんん!!」
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