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二
「ボール遊び、つまんない。」
私は森の中にぽーんっとボールを放った。
「もっと、強い奇跡が欲しいな、、、。」
もしそんな方法があったなら、
「命だってあげるのに、、、。」
幼くても、私は周囲の状況を理解していた。
名家の当主で、プライドの高い父。
強い奇跡の力で先代に目をつけられ、父と結婚させられた元使用人の母。
二人の関係が、決して相思相愛でなく、自己の利益を押し付けあった醜いものだと、私は知っている。
そして、大好きな妹。
妹はもうすぐ一歳になる。
名家の力を継ぐことを一心に期待されている。
でも私は、妹が両親の期待にそぐ能力でないことを、少なからず予感している。
かく言う私は、8歳になっても奇跡が開花しないので心配されている。
否、開花しないのではない、見せないのだ。
私は、感情を見る奇跡が使えた。
名家でない家庭に生まれたのなら、きっと喜ばれたことだろう。
名家でない家庭であれば、だけど。
名家では、感情を数人分見ることのできる能力者など、生まれて当たり前なのだ。
私は、一人分の感情を見るのがやっとだった。
それがバレれば、そして更に妹の奇跡も弱者だったら。
私の家、、、春園家の力は格段に落ち、最悪の場合没落する。
せめて、私達姉妹のうちどちらかでも、強者の奇跡を持てるならば、、、。
でも、奇跡とは賜るものだ。
生まれた時、一人一つと決まっている。
「なにか、お困り?お嬢さん。」
ぱっと振り向く。
月のように美しい瞳が、私の黒髪を捕らえた。
白髪の、美しい髪の毛が揺れた。
暫く黙ったままでいると、その人は近づいてくる。
私の底から湧いてくるのは、紛れもない恐怖だった。
圧倒的な、それでいて繊細な力を感じた。
しかし、恐怖を抱いていてもなお私の足は、動こうともしなかった。
「強い奇跡、欲しい?欲しいんでしょう?」
女は、口元に笑みをたたえた。
でも、その目だけは、私をがっしり掴んで離さない。
まだ一言だって話していない私の心をピタリと当ててくる、そういう奇跡なのか、はたまた私の顔が分かりやすかったからなのか、分からない。
私は、微かに、本当に微かに頷いた。
「、、、分かった。」
女は、紙袋を取り出す。
中には、一生分とも思えるほど大量の薬。
女は、これを一日一錠飲めば、人の心を読むことができるのだと言った。
試しに、一錠飲んでみる。
ほうっと、高揚感に包まれた。
「これを飲むと、寿命が縮んでしまう。それでもいいなら、それ、差し上げる。」
先ほどとは違い、本当に楽しそうに笑みを浮かべた。
私はまた頷いた。
だって、それだけで解決するもの。
思えばこの時から、私の人生は一層苦しみの中に居た。
でもそれで良かった。
だってこれで、家族を守れるから。
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