1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

「ボール遊び、つまんない。」 私は森の中にぽーんっとボールを放った。 「もっと、強い奇跡が欲しいな、、、。」 もしそんな方法があったなら、 「命だってあげるのに、、、。」 幼くても、私は周囲の状況を理解していた。 名家の当主で、プライドの高い父。 強い奇跡の力で先代に目をつけられ、父と結婚させられた元使用人の母。 二人の関係が、決して相思相愛でなく、自己の利益を押し付けあった醜いものだと、私は知っている。 そして、大好きな妹。 妹はもうすぐ一歳になる。 名家の力を継ぐことを一心に期待されている。 でも私は、妹が両親の期待にそぐ能力でないことを、少なからず予感している。 かく言う私は、8歳になっても奇跡が開花しないので心配されている。 否、開花しないのではない、見せないのだ。 私は、感情を見る奇跡が使えた。 名家でない家庭に生まれたのなら、きっと喜ばれたことだろう。 名家でない家庭であれば、だけど。 名家では、感情を数人分見ることのできる能力者など、生まれて当たり前なのだ。 私は、一人分の感情を見るのがやっとだった。 それがバレれば、そして更に妹の奇跡も弱者だったら。 私の家、、、春園家の力は格段に落ち、最悪の場合没落する。 せめて、私達姉妹のうちどちらかでも、強者の奇跡を持てるならば、、、。 でも、奇跡とは賜るものだ。 生まれた時、一人一つと決まっている。 「なにか、お困り?お嬢さん。」 ぱっと振り向く。 月のように美しい瞳が、私の黒髪を捕らえた。 白髪の、美しい髪の毛が揺れた。 暫く黙ったままでいると、その人は近づいてくる。 私の底から湧いてくるのは、紛れもない恐怖だった。 圧倒的な、それでいて繊細な力を感じた。 しかし、恐怖を抱いていてもなお私の足は、動こうともしなかった。 「強い奇跡、欲しい?欲しいんでしょう?」 女は、口元に笑みをたたえた。 でも、その目だけは、私をがっしり掴んで離さない。 まだ一言だって話していない私の心をピタリと当ててくる、そういう奇跡なのか、はたまた私の顔が分かりやすかったからなのか、分からない。 私は、微かに、本当に微かに頷いた。 「、、、分かった。」 女は、紙袋を取り出す。 中には、一生分とも思えるほど大量の薬。 女は、これを一日一錠飲めば、人の心を読むことができるのだと言った。 試しに、一錠飲んでみる。 ほうっと、高揚感に包まれた。 「これを飲むと、寿命が縮んでしまう。それでもいいなら、それ、差し上げる。」 先ほどとは違い、本当に楽しそうに笑みを浮かべた。 私はまた頷いた。 だって、それだけで解決するもの。 思えばこの時から、私の人生は一層苦しみの中に居た。 でもそれで良かった。 だってこれで、家族を守れるから。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加