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あの日から、お姉ちゃんと会うと少し気まずくなってしまった。 姉は、私より少し前を歩く。 肩を並べて歩く?そんなこと、この家で私に許されてはいない。 もし両親に見つかったら、恐ろしい折檻をされるのは目に見えている。 「未琴。」 低い声、思わずビクついてしまう。 父だ。父が姉を呼んでいる。 「お父様、どうされました?」 父は私に見向きもせず、姉を呼ぶ。 姉も、父の手前まるで気にしていない振りをしている。 これが、弱者の扱い。 でも、住まわせてもらえるだけ春園家は優しい方だ。 秋島家や冬本家の方はもっと酷い。 奇跡がひとたび弱いと分かれば、追い出され、二度と戻ってくることを許されない。 昔は絞め殺されることもあったそうだ。 一族の汚点をとにかく消し去りたい、それが彼らの言い分だったのだと思う。 私からしたら、そんなことをされる時代に生まれなくて良かった、程度だけど。 「なにをしてるんだ、早く自室に戻りなさい。」 私の名前を呼ばずとも、父が私に対しそれを言っているのが声色で伝わる。 「了解しました。」 いつもどおりの機械的な声で対応する。 そこに親子間の愛はない。 あっては、ならない。 プライドの高い父は、常に私を厄介者扱いした。 初めは庇っていた母も、私を助けても自分が傷つくだけだと悟ってから一言も会話していない。 それが、名家なのだ。 それが、私の日常。 それが、私という出来損ないに与えられた、唯一の生き方だった。
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