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古びた鍵を握りしめ、私名義の別荘となった洋館に辿り着いたのは、二月の寒い日のこと。
この冬一番の大雪が全国各地に積もった日だった。
もう少しこの別荘が高所にあったのなら、玄関ドアは雪に埋もれていたかもしれない。
他の別荘地から少し離れた森の中にある、この洋館。元は、おばあさまのご実家だったそうだ。
玄関の鍵を開けながら、見上げた山の頂が真っ白なことに気づき、ホウッとついた息は、ふわっとミルク色に広がる。
『大事な鍵をあげるわ、秘密の部屋の鍵よ』
なぜ、そんな大切な鍵を私に? そう問う私に、おばあさまは眉尻を下げ、少し泣き出しそうな笑顔を覗かせて。
『だって、マイちゃんはわたしのおかあさまに似てるですもの』
吐息のように呟きながら、どこか遠くに視線を這わす。
その瞳がさびしそうに揺れていたのが気になったけど、事情を問えることもなく、おばあさまは亡くなってしまわれた。
慌ただしく葬儀が執り行われ、四十九日が終わった足で、ようやっと私はここを訪れた。
一通り、空気の入れ替えをして、薪ストーブにそっくりなガス暖炉を点ける。
昔は本物だった気がするな、と赤々と燃える火に、小さな頃の記憶を辿る。
部屋を暖めながら、長年使われていなかった家具や調度品の手入れをした。
埃っぽい家具や床を、むせながら雑巾で拭き、一通り終わって、持ってきたお茶を淹れてソファーに腰かけたのは夕刻。
テーブルの上に置いていた洋館の鍵ではない、もう一つの古い鍵をじっと見つめる。
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