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「……蒼」
疲れきった顔で笑った母ちゃんが、そっと白い固まりを差し出してきた。
おっかなびっくり受け取って、そろそろと顔を覗き込む。
「……ちいせぇ……」
「結黄って名前にしたんだ。黄色を結ぶで、結黄」
プニプニと柔らかそうな頬を指先でつつきながら尚登さんが教えてくれる。
「……黄色? なんで?」
「……蒼は、五月に生まれたから『蒼』なの。……結黄は、冬生まれだから『黄色』。……それから、家族を結びつける、の『結ぶ』よ」
ふぅん、と。気のない返事を返しながら、小さいのに重たくて温かい弟をもう一度見つめる。むにゅむにゅと唇を動かしながら眠る顔は、オレにはあんまり似ていない。
かと言って、尚登さんに似ている訳でもなさそうだ。
「……結黄」
そっと名前を囁いたら、ふぁぁ、と目を閉じたままの結黄が欠伸をした。
「ふっ……寝てるのに欠伸……」
その可愛さにクククッと笑いが零れる。
「……可愛いなぁ」
自分が呟いたのかと思うタイミングで聞こえた尚登さんの声に、ハッと顔を上げた。
「尚登さんも抱っこ、」
「うちの子ども達はホント可愛いね」
「……こども、たち……」
自分も入っているんだと気付いた時の、嬉しさなのか気恥ずかしさなのか。
よく分からないのにモジモジしてしまう気持ちをぶつけるみたいに、結黄を尚登さんに差し出す。
壊れ物を扱う手つきで受け取った尚登さんに背中を向けて、「ちょっとトイレ」ともにょもにょ呟いて病室を出た。
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