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翌日も、その翌日も。
「林田くん」呼びに反応できずに、クラスの中で早くも孤立しつつあった。
授業はまだ始まっていなくて、指名されることもまだないのだけれど、この調子ではそれも怪しそうだ。
一人こっそりと頭を抱えていたら、
「――蒼くん」
「へっ?」
唐突に下の名前で呼ばれて顔を上げる。
「あ、ホントだ」
「……ホントだ……?」
「時田くんがね。教えてくれたの。下の名前だったら気付くよって」
「……優が?」
「中学の時はみんな下の名前で呼んでたんだってね。……あ、あたし、今日日直で。提出物集めてくるように言われてるの」
「あ、……えと、どれだっけ?」
これだよ、と示されたプリントを探して手渡す。
「ありがと」
名前の分からない女子がにっこり笑って去っていく。その後ろ姿を最後まで見送らずに、優を探した。
席に座ってこっちを見てニヤニヤしていた優と、すぐに目が合う。
「……おう。お礼なら自販機のジュースでいいぞ」
「ま~さ~る~!!」
駆け寄って肩をバシバシと叩く。
「おまっ……お前、いつの間に~」
「言ったろ。お前のこと大事だって」
「だからぁ! はっず~!!」
「うるせ~」
ポカスカと大して力の入っていない拳でお互い小突き合ってじゃれる。
後は教師の呼びかけにさえ気を付ければなんとかなるんじゃないか、なんて。そんな安心感でようやく肩から力が抜けた。
***
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