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「学校はどう?」
「ん~、ボチボチって感じかなぁ」
洗い物をしているばあちゃんの隣で、洗い終わった皿を受け取って布巾で水気を拭く。じいちゃんがちゃんと薬を飲んでいるかをチラチラ見ていたばあちゃんが、オレの返事を聞いてコロコロ笑った。
「ボチボチかぁ、それくらいが一番いいねぇ。……お父さんとは? どぉ?」
「ん~。……まぁ、ちゃんとやってるよ。……結黄のことでケンカはしょっちゅうしちゃうけど」
「まぁまぁ、兄弟みたいねぇ」
うふふふふ、と笑うばあちゃんは少女みたいに可愛い。
「優くんも元気?」
「元気。……てか、優さぁ、彼女出来てさぁ~」
「あらまぁ! なぁに、ワクワクしちゃうわねっ」
本当にワクワクしているらしいばあちゃんが、水をジャバジャバ出しっぱなしにしながら、キラキラした目でこっちを見てくるのがおかしくて笑ってしまった。
「ちょっと、ばあちゃん。水もったいないから」
「ありゃりゃ……。いやぁ、でも。優くんに彼女がねぇ。あらぁ。……蒼は?」
「オレは結黄より優先したいことないもん」
「あらあら」
優しい顔でコロコロ笑ったばあちゃんが最後の一枚を洗い終えて、タオルで手を拭いている。
「……でも良かったわぁ」
「何が?」
「色々よ、色々。みんな元気で幸せで。なぁんにも心配ないわねぇ」
「……ばあちゃんは? 元気で幸せ?」
「そりゃあ、歳が歳だから、元気! っていう訳にもいかないけど。……蒼がこうやって来てくれたら、幸せだし元気になるよ」
「歳が歳って……ばあちゃんまだまだ若いんじゃないの? いくつだっけ?」
「あらやだ! 女性に年齢なんて聞いちゃダメよ! デリカシーがないわ。モテないわよ~」
「デリカシー……」
モテない等と言い切られて若干ヘコんでいたら、「あらやだ」と笑ったばあちゃんが頭をコツンとつついた。
「やぁねぇ、冗談よぉ。蒼とお喋りするの、楽しくって大好きよ」
「……そっか。……じゃあ、また来るね」
イイコイイコしにくる手のひらを、ちょっとしゃがんで受け止めにいく。
なんにも考えないで甘えられるのは、この場所だけかもしれない。
尚登さんの前で母ちゃんに甘えるのは恥ずかしいし、母ちゃんに甘えるのはそもそも照れくさい。結黄の前ならもっと嫌だ。
優には甘えてるかもしれないけど、甘えるの種類がちょっと違う。
だから時々、むしょうにこの場所に来たくなる。別に日常が辛いとか言う訳じゃないけど。
「あ、ねぇばあちゃん。今度ボタンの付け方もっかい教えて。シャツのボタン取れちった」
「あらっ! そういうのをクラスの子につけてもらうんじゃないの?!」
「……なにそのベタなやつ」
「あら、違うの? よくドラマや漫画であるじゃない」
「そんなのしないでしょ~。ソーイングセット持ち歩いてる高校生なんていないんじゃない?」
「まぁぁ~、そうなのぉ?」
「ぇっ、めっちゃ残念そう?!」
「おじいさん、違うんですって」としょんぼりじいちゃんに話しかけたばあちゃんと、「そりゃそうだろうさ」と大口開けて笑うじいちゃんの組み合わせに、なんだか妙にほっこりしてしまった。
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