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葬儀が終わった翌日。母ちゃんと二人、色々な片付けがあるだろうからと、じいちゃんの家を訪ねた。
だけど、家の中はいつもと全然変わらないのにスッキリ片づいていて、母ちゃんもオレも拍子抜けしてしまったくらいだ。
とりあえず、しばらく過ごせるだけの食事の作り置きを、と台所へ向かった母ちゃんを見送った後。
「……蒼。じいちゃんな。施設に入るから」
じいちゃんはあっさりそう呟いた。近所の銭湯に行く、くらいのアッサリ具合だった。
「…………施設?」
「そう。ばあちゃんと決めとったんだわ。どっちかが先に死んじまった時、残された方は施設に入る。……美代子さんには迷惑かけられん、てな」
へっへっへ、と。いつもの子供顔で笑ったじいちゃんが、でっかくて細くてゴツゴツの手で頭をわっしわっしと撫でてくる。
「この家は売る。そういう算段もつけてある」
懐かしそうな顔であっちこっちを見つめる優しい目が、順番の最後にオレを見つめた。
「もう、じいちゃんもばあちゃんもここにはおらん」
「……会いに行ってもいいんでしょ?」
「…………時々にしろ。蒼には大事にせんならん家族がおる」
「……じいちゃんだって家族だよ」
「家族だよ、知っとる。絶対に切れん縁だよ。だからこそ、時々でえぇ。……はよぉ、家族になれ。そっちの方が、うんと大事だ。……これからじいちゃんと過ごすよりも、うんと長い時間を過ごさんといかん」
キッパリ言い切ったじいちゃんが、モゾモゾ動いてティッシュを手渡してくれる。
「……泣かんでえぇ。ばあちゃんと決めたことだ。一生会えんなる訳でもない」
「……うん」
ティッシュで顔を拭いて、鼻をかんで。
「……まぁ、ちょっと……。思っとったより早かったがなぁ。……オレの方が先とばっかり思っとったからなぁ」
さっきと違う優しい手つきで頭を撫でられたら、涙も鼻水も止まらなくなってしまった。
お葬式の時は我慢出来たのに。我慢した分が倍になって出てきたみたいだ。
「こういうのは、ばあちゃんの得意分野なんよなぁ」
困った顔して笑ったじいちゃんは、オレが泣き止むまでただひたすら頭を撫でてくれた。
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