81人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日。
行こうか行くまいか迷って、結局社会科準備室へ向かった昼休み。
ドアを開けたオレの顔を見るなり、先生は少しホッとしたように笑ってくれた。
「来ましたか」
「え? ダメだった?」
「いいえ、逆です。来てくれて良かった」
いつもオレが座る場所に、お弁当箱が置かれている。
「これ……?」
「君に作ってきました」
「ぇ? 先生が?」
「食べられる分だけでいいですから、食べてください。足りなければ、私の分も食べて構いません」
「でも、……パン、持ってきたし……」
「では、パンも食べて、お弁当も食べればいいんです」
何の問題があるのかと言いたげな表情をした先生が、それでも躊躇うオレにだめ押ししてくる。
「残しても構いません。……背、伸ばしたいんでしょう?」
「……うん」
「他の生徒には内緒ですよ」
「……ん、分かってる」
「では、いただきましょう」
まるで幼稚園生か小学生みたいに、先生と一緒に手を合わせて「いただきます」をして。
昨日も食べた玉子焼を、まずは一口。
「……美味しい」
「それは良かった。他のおかずも、食べてみてください。全部自信作ですから」
「……ん。ちゃんと食べる」
本当は、好き嫌いだってないし、アレルギーがある訳でもない。ただ純粋に、食べたくないというか、食べられないというか、食べることに興味がないというか。
「美味しい」も「美味しくない」もよく分からなくなっていた近頃の食事は、ただ苦痛なだけの時間だったけれど。
「……先生、すごいね」
「何がです?」
「料理、上手なんだね」
「……ありがとうございます」
「ホントだよ? お世辞とかじゃなくて。ホントに美味しい」
「それはよかった。無理せず、食べられるだけでいいですからね」
うん、と頷き返したオレが、どんな表情をしていたのかは分からなかったけど。
先生は少しだけ目を丸くした後で、にっこりと笑い返してくれた。
*****
最初のコメントを投稿しよう!