episode.1 別れと、出会いと

12/12
前へ
/55ページ
次へ
 夏頃から続いている、先生とのお昼ご飯。毎日毎日、彩りよく美味しいお弁当を食べさせてもらった。  最近、ようやくお弁当箱を空に出来る日が増えてきている。初めて全部食べ切れた日は、先生もにっこり笑ってくれたなぁ、なんて。思い出し笑いと一緒に玉子焼きを飲み込む。  こっちを見て微笑んでいた先生が、はた、と何かに気付いたように首を傾げた。 「背が……少し伸びたんじゃないですか?」 「えぇ? 分かんない。だって春しか測んないじゃん」 「保健室には毎日身長計が置いてありますよ」 「ん~。……いや、春のお楽しみにしとく」 「そうですか。それも楽しみがあって良いことですね」  あの日と同じように、先生がにっこり笑ってくれる。他の生徒の前では未だにカタイままなのに、なんて。ちょっとだけ嬉しくてくすぐったい。 「もうすぐ春休みですね」 「そっかぁ……もうそんな季節かぁ」 「身体測定が楽しみですね」 「ホントに! 伸びてっかなぁ」 「伸びていますよ。……春休みの間も、食事をきちんととれば、きっともっと伸びます」 「……うん。ちゃんと食べる」 「それがいいです」 「っ、でも!」 「はい?」 「……来年も……その……先生のお弁当、楽しみにしてて、いい?」  伺うように見つめた先、ちょっとだけ目を丸くした先生が、ふっくらと優しい顔して笑ってくれた。 「……。構いませんよ。私も、君と食べるお弁当は、いつもより美味しく感じますから」 「へへ。じゃあ、来年もお願いします」
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加