81人が本棚に入れています
本棚に追加
波多野を名乗れる最後の日に、母ちゃんはオレを連れてばあちゃんの家へ向かった。
迎え入れてくれたばあちゃんは、もう何の用件か知ってるみたいに、ほんの少し淋しそうな顔をしていた。
「……再婚、することになりまして」
何度か躊躇った後に早口でそう呟いた母ちゃんの言葉に、ただゆっくり頷いたじいちゃんと、母ちゃんの手を優しく握ったばあちゃんと。
「……あの子が亡くなって、もう十二年よ。……よく、これまで一人で頑張ってきたわ」
「……お義母さん……」
「……あの子はもういないけれど、蒼は私達の孫だし、……あなたのことも、本当の娘だと思っているのね。……だから、何か困ったことがあったら、今まで通りにいつでも頼って頂戴ね」
「…………ありがとうございます」
深々と頭を下げた母ちゃんの目尻が、光っていた。それ以上何も言わない母ちゃんをチラチラ見つめた後。
意を決してばあちゃんを見つめる。
「…………オレ」
「うん?」
「……これからも、……ここに、来ていい?」
「勿論。いつでもおいで」
コロコロと。いつもの顔で笑ったばあちゃんが、優しい手でオレの肩を撫でてくれた。
「いつでも、ここで待ってるからね」
***
最初のコメントを投稿しよう!