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翌日もまた、引っ越しの片付けもそこそこに家を出た。母ちゃんの「気を付けてね」という淋しそうな声は、今も耳に残っている。
「……じいちゃん、ばあちゃん、きたよ」
「…………ありゃ、蒼? 一人で来たの?」
台所からひょっこりと顔を出して「偉かったねぇ」と笑うばあちゃんに、「オレもう十四歳だよ?」と笑い返す。
靴を脱ぐ間に台所から玄関へと迎えに来てくれたばあちゃんは、優しい顔で笑っている。
「何かあった?」
「……ううん、なんも。……いつでもおいでって、こないだ言ってくれたから」
「そう。……おじいさん、蒼が来ましたよ」
オレの背中を優しく押したばあちゃんと一緒に居間に入る。テレビを見ていたらしいじいちゃんは、「よぉ」と片手を上げて笑ってくれた。
「好きなん見ていいぞ」
「ありがと」
リモコンを手渡してくれたじいちゃんが、へっへっへとスカスカの声で笑う。
「なんか飲む?」と聞きながら台所へ移動するばあちゃんの背中に、「自分でやるよ」と声をかけながら一緒に台所へ向かう。
「……蒼」
「うん?」
「いつでも来ていいけど、お母さんとお父さんには、ちゃんと『ばあちゃん家に行く』って、言わないとダメだよ」
「ん。分かった」
頷いたら、「偉い偉い」とばあちゃんが頭を撫でてくれる。「もう子供じゃないのに」と照れくさく呟いたら、「まぁだまだ子供だよぉ」と笑われてしまった。
その日は結局晩ご飯の時間ギリギリまでばあちゃんの家にいて、「帰ってらっしゃい」と怒った母ちゃんの電話で渋々家に戻った。
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