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その日の晩、なんだか小腹が空いた気がして目が覚めて、こっそり部屋を出た。
家の中はひっそりと静かで、なんだかホッとする。
コソコソと台所を漁って、食パンとハムを見つけて「これでいっか」と頷いているところに、ペタペタと足音が聞こえてきてギクリと肩が跳ねた。
「……蒼? 何してるの?」
母ちゃんの声に振り返る。オレの手元をチラリと見た後で、もう怒る準備の出来た顔をしているのが気まずい。
「……あ~……。ぇと……。……腹減っちゃって?」
「もう。だからもっと食べたらって言ったのに」
「……ごめん。……けど、」
「お父さんがせっかく作ってくれてるのに、いつもたくさん残して」
「……」
別に作ってくれなんて頼んでない。
そう返したいのを、踏みとどまる。
「お父さんだって、いつも淋しそうにしてるのよ? 前はもっと食べてたでしょう」
「……そんなことないよ」
「変わらないよ」と絞り出してパンとハムを元あった場所に戻す。
「……部屋戻るよ」
「待って、蒼。……ちゃんと話してなかったことは、お母さんも謝る。本当にごめんなさい。……だけど、蒼はもうすぐお兄ちゃんになるんだし、お父さんとももっと、」
「――話してるじゃん! 別に、無視してる訳じゃない……!」
「だったらどうして、すぐに自分の部屋に入っちゃうの? 前はご飯の前も後も、たくさん色んな話してくれたでしょう?」
「…………前はっ! ……自分の部屋がなかったからだよ!」
「蒼……」
「……オレは! ……オレはちゃんとしてるよ!」
「蒼?!」
母ちゃんの脇を抜けて、階段を上がろうとしたのに。
「蒼くん……」
階段の所に気まずそうな顔をした尚登さんが立っていて。
全部聞かれていたんだと思ったら何にも考えられなくなって、気が付いたら玄関に走っていた。
「蒼! 待ちなさい!」
追いかけてくる母ちゃんの声を無視して、玄関から飛び出した。
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