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キミの隣で
春
暖かくて、柔らかい陽の光に包まれる優しいこの季節を俺は割りと好きな方だった。
でも、今は嫌いだ。
訳もなく眠いのも、花粉が飛んでるのも、苦手な虫が出てくるのも別に大した問題じゃない。
嫌いな理由は、ただ一つ……
彼女とたわいもない話をしながら通った通学路を、一人で歩かなければならなくなったから。
バイトが終わった後、携帯を取り出して文字を打ち込む。
ハルト
【バイト終わったー!迎えに来て】
おねだりスタンプもついでに送信。
少し経ってから既読がついた。
モモ
【またぁ?】
モモ
【私、ハルの足じゃないんだけど】
立て続けに2通のメッセージが送られてきた後、怒りを表したスタンプも送られてきた。
かと思えば、そのすぐ後に
モモ
【なーんてね。終わる頃だと思って今向かってる】
モモ
【もうすぐ着くから待ってて】
思わず顔が綻んだ。
数分後、若葉マークがついた薄ピンクと白のツートンカラーの軽自動車が目の前に停車した。
「お疲れ、ハル。待った?」
運転席の窓から笑顔を覗かせたのは、彼女の百花。
「んーん全然。ってか、また後ろの方擦った?」
塗装が剥がれた部分を指差しながら聞くと、百花はばつの悪そうな顔して言う。
「………それ、お母さんの仕業…」
「はは……やってくれたね」
苦笑しながら助手席の方へと回る。
俺がシートベルトを締めたのを確認してから、車が発進した。
交通量の多い通りを流れに乗って走行する。
百花が自動車免許を取得してからまだ二週間。
慎重派の百花は、法廷速度をキッチリ守り、安全確認を二度する真面目な優良ドライバー。
強張った表情に、やたら姿勢が良い様は緊張を窺える。
そんな彼女が可愛くて微笑ましくて堪らない。
百花は普段はお喋りなのに、運転中は余裕がないのか無口になる。
話し掛けても空返事ばっかりでつまらないけど、一生懸命な彼女の横顔を見ているのは楽しい。
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