タイムマシン殺人事件

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            先日、仕事が終わってからバイト仲間たちと飲みに行った。  俺たちはアパレルメーカーの倉庫で働いていたけれど、つい最近俺だけが契約を打ち切られた。正社員とため口で話していたからなのか、理由はよく分からない。それで、仲間たちが送別会を開いてくれたのだ。 「お前、次のバイト決まってるのか?」  隣の席で飲んでいたバイト仲間がそう俺に尋ね、烏賊ゲソの唐揚げを口に放り込んだ。 「いや、決まってないけど」  俺は答えた。 「そうか、決まってないか。じゃあ、俺の知り合いから聞いたバイトに行ってみるか? 知り合いは行かなかったんだけど、破格な日当のバイトらしいんだ」 「破格な日当? まさか、闇バイトじゃないだろうな」 「いや、闇バイトじゃない。それが、ちょっと変わったバイトらしいんだ。実験の助手だと言うんだけど、タイムマシンで過去に行って帰って来る実験なんだと」 「タイムマシン?」 「ああ、おかしいだろ。そんなもの真面目に研究してるやつがいるなんてな」  烏賊げそ唐揚げ男が嘲った。 「そのバイト、どんなものか教えてくれるか」 「お前、そのバイトやる気なのか?」 「いや、分からん。でも、一応聞かせてくれ」 「知り合いに聞いてみるから、分かったら連絡する」  烏賊げそ唐揚げ男はそう約束してくれ、後日連絡があった。  破格な日当に実験の手伝い――これは怪しい仕事なんじゃないかと思ったけれど、日当の額は金欠の俺には魅力的だった。バイトを募集しているのは間土太郎博士。俺は彼についてネットで調べた。  間土は国立T大学で物理学を専攻して、卒業後は国立先端物理研究所に勤務する。将来は所長と目されたけれど、五十二歳で退職する。その理由は不明だが、時間旅行の原理を発見したのでそれを実用化するためだという人もいる。真偽のほどは不明だ。      時間旅行について著わした書物もある。学術論文もあるのだが、読んでも理解できないと思い、一般読者向けに書かれた本を図書館で借りて読んだ。理解できなかったけれど、偉い学者だというのは何となく分かった。 経歴からはあながち怪しい人物ではないようだから、俺は間土の仕事をすることにした。
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