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その後で敦史が、急に気づいたというように、
「あ、いけない」
と、足元に落としてしまっていた白いコンビニの袋を拾い上げ、
「これ、買って来たんだ。一緒に食べないか?東屋はなくなっちゃったけど」
と言って、袋の中から、買ったばかりのきれいな新聞を取り出し、広げて敷いた。
「スゴイ、敦史くん。用意周到だね」
「まるで10年前みたいだろ?」
そうだった。
初めて二人で東屋に来た日は、彼が家から持ってきた古新聞を地面に敷いて、いろいろな話をしたのだ。
「あの時は、食べ物も飲み物も持って来なかったから……」
敦史が言うと、橙子も、
「そうそう。ベラベラ喋って、お腹ペッコペコになって」
「そう。それで、同時に腹がグーッって鳴って」
「そうそう。笑ったよねぇ、って、敦史くんも覚えてるんだ?」
「もちろんさ。あれは忘れられない」
「変なところ、覚えてるよね?お互いに」
二人はまた笑い合った。そして、
「じゃ、食べようか」
と言って敦史が袋から、サンドイッチと缶コーヒー、ホットミルクティーを出す。
「2度目に来た時と同じ!」
「おっ、覚えてくれてたか」
「もちろん!」
二人は、遠くの山並みや見降ろす町の景色を眺めながら、空腹を満たす。そして、それぞれに食後の飲み物を飲みながら、10年分の話をした。
「橙子のおかげだよ」
「……?」
笑みを敦史に向ける。
「俺が無実だって、証明してくれたんだろ?」
「あぁ……」
橙子は、火事の後の顛末を話した。
「偶然だったけど。でも、私は絶対違うって信じてたよ」
「……そうなのか?」
「うん。誓ってくれたもんね、ここで。私たち、二人のために、タバコは止めるって」
「……ありがとう」
真面目な表情でそう言う敦史に、昔のワルの空気はもうない。
橙子は笑みを浮かべながら、
「あれから、どこに行ったの?」
「横浜のドヤ街」
「……?」
そう言われても、橙子にはピンと来ない。
先を促す目で見る橙子に、敦史は
「親父と二人で、日雇いの仕事とか、できる事をしながら、何とかひっそりと暮らしてたんだ」
そう加えた。
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