8.事件から10年後

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 その後で敦史が、急に気づいたというように、 「あ、いけない」  と、足元に落としてしまっていた白いコンビニの袋を拾い上げ、 「これ、買って来たんだ。一緒に食べないか?東屋はなくなっちゃったけど」  と言って、袋の中から、買ったばかりのきれいな新聞を取り出し、広げて敷いた。 「スゴイ、敦史くん。用意周到だね」 「まるで10年前みたいだろ?」  そうだった。  初めて二人で東屋に来た日は、彼が家から持ってきた古新聞を地面に敷いて、いろいろな話をしたのだ。 「あの時は、食べ物も飲み物も持って来なかったから……」  敦史が言うと、橙子も、 「そうそう。ベラベラ喋って、お腹ペッコペコになって」 「そう。それで、同時に腹がグーッって鳴って」 「そうそう。笑ったよねぇ、って、敦史くんも覚えてるんだ?」 「もちろんさ。あれは忘れられない」 「変なところ、覚えてるよね?お互いに」  二人はまた笑い合った。そして、 「じゃ、食べようか」  と言って敦史が袋から、サンドイッチと缶コーヒー、ホットミルクティーを出す。 「2度目に来た時と同じ!」 「おっ、覚えてくれてたか」 「もちろん!」  二人は、遠くの山並みや見降ろす町の景色を眺めながら、空腹を満たす。そして、それぞれに食後の飲み物を飲みながら、10年分の話をした。 「橙子のおかげだよ」 「……?」  笑みを敦史に向ける。 「俺が無実だって、証明してくれたんだろ?」 「あぁ……」  橙子は、火事の後の顛末を話した。 「偶然だったけど。でも、私は絶対違うって信じてたよ」 「……そうなのか?」 「うん。誓ってくれたもんね、ここで。私たち、二人のために、タバコは止めるって」 「……ありがとう」  真面目な表情でそう言う敦史に、昔のワルの空気はもうない。  橙子は笑みを浮かべながら、 「あれから、どこに行ったの?」 「横浜のドヤ街」 「……?」  そう言われても、橙子にはピンと来ない。  先を促す目で見る橙子に、敦史は 「親父と二人で、日雇いの仕事とか、できる事をしながら、何とかひっそりと暮らしてたんだ」  そう加えた。
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