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1.秘密の始まり
「いよいよだね」
「そうね。やっとここまで来れたんだね……」
敦史と橙子が、感慨深げに店内を見回す。
地元民から、みかん山と呼ばれている、丘陵地帯の中腹。
富士、箱根、さらには太平洋の海が一望できるこの場所で、今日、二人の20年越しの夢が叶うのだ。
元は、みかん畑の中の、小さな東屋が建っていた所。
そこは、二人の秘密の場所でもあった。
*
時は遡り、二人が中学生だった頃。
生まれてすぐに母親を亡くした敦史は、父一人子一人。その父も病弱で稼ぎが少なく、町営住宅で細々と暮らしていた。
一方の橙子の家は、代々継がれてきた大きなみかん農家。
父親は町の議員もしていて、裕福な家庭に育った。
お互い、家がみかん山の麓でごく近所だった事もあり、幼い頃から、二人は自然と仲良しになった。
お兄さんが欲しかった橙子は、面倒見も良かった一歳年上の敦史に懐いていたのだ。
ところが、橙子の父親が、それを快く思っていなかった。
貧乏な父子家庭の少年……。
それだけで敦史のことを見下しているのが、幼い橙子も、父親の言葉の端々から感じていた。
(そんなの偏見だよ)
そう思いながら、大人しい橙子は、反抗もできずにいた。
目を瞑ってくれていた父親も、橙子が中学生になると、いよいよ反対攻勢が強くなっていった。
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