7.晴れる

1/2
前へ
/17ページ
次へ

7.晴れる

 結論は予想以上に早く出た。  翌日、大学生の飯田晋一が、任意で警察署に呼ばれた。  全て、コンビニの防犯カメラに映っていたのだ。  あの日の夕方、コンビニでハイライトと100円ライターを購入。その足でみかん山に登っていくところ。  それから約10分後に降りて来て、駐車場に止めたままの車に乗り込み、出ていくところ。 「案外、あっさり認めましたよ」  中年刑事が、若い刑事を伴い、わざわざ橙子の家まで出向いて説明してくれた。 「じゃあ、落ちていたタバコの空箱も、飯田先生がわざと置いていったんですか?」  応接間で、両親と一緒に説明を聞いていた橙子が尋ねた。一つでも多く、敦史に付けられた汚点を消してあげたかった。  その質問には、若い刑事が答えた。 「そうですね。実は、空箱からは指紋が全く検出されてなかったんですよ」 「えっ……どういうことですか?おかしくないですか?」  橙子が先を促すと、若い刑事も頷いて、 「そう。おかしいんですよ。もし進藤さんの火の不始末だったとすると、彼の指紋が残っていないというのは不自然なんです」 「なるほどね。そりゃそうだ」  父が頷く。 「明らかに、誰かが吹き取った。つまり、進藤さんに罪を着せようとした、ということになります」 「……飯田先生が、ですか?」 「はい。しかも、進藤さんを目撃したと言ってきたのも、飯田容疑者でした。まぁ、目撃したことは事実ですが」 「えっ……」  それには、橙子だけでなく、隣の父と母も驚きの声を上げた。 「なんで、飯田先生は、そんなことを……」  と訊いたのは、母だった。  それには、中年刑事が厳しい表情になって、 「嫉妬してたようです。進藤さんに」  はっとする橙子。自分と敦史のことだけで精一杯で、飯田の気持ちなど考えたこともなかったから。  改めて振り返れば、飯田の自分を見る目、そして言葉に、若干おかしいと感じるところはあったのだ。 「あ、それからですね」  と、中年刑事が続けて、 「あなたは昨日、仰ってましたよね。タバコは絶対止めると、あなたに誓ったと」 「はい」 「実はね、火事があった日、目撃情報をもらって、すぐに進藤さんに事情を聞きに行ったんです。その時、彼も同じこと言ってました。『俺はタバコは絶対止めると、彼女に誓ったんだ。だから、絶対に俺じゃない』ってね」 「そうだったんですか?なら、なぜすぐに私に訊いてくれなかったんですか?」  思わず詰めよるような口調の橙子に、中年刑事は、一度視線を両親に向けてから、 「いいんですか?」  と、橙子に訊いた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加