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「あんな不良とは、付き合うんじゃない」
ある日、父親からキツく言われた。
ここまでハッキリと、しかも厳しい口調で言われたのは初めてだった橙子も、さすがに我慢ができずに、
「どうして?敦史くんはいい人だよ」
珍しく反旗を翻すと、
「どうしてもだ。橙子も中学生になったんだから、分かるだろ?」
「分かんないよ。敦史くんは……」
「橙子!いい加減にしないか!」
上から押し付けるように言う父親に、見かねた母親が、
「あなた。そんな乱暴な言い方」
とたしなめてくれたが、続けて、
「橙子もね、お願い。お父さんの言う通りにして」
なだめようとした。完全にキレた橙子は、
「家柄なんて関係ないじゃん!敦史くんのこと、お父さんもお母さんも、何も知らないくせに!」
大声で言い捨て、部屋に閉じこもった。
それからしばらく口もきかなかったが、中学生で、元々大人しい性質の橙子に、押し通すだけの強さもなく……。
橙子と敦史は、次第に距離を置くようになっていった。
それでも、事情を話せば分かってくれる……敦史は、そんな人だった。
「そりゃそうだろ。むしろよく今まで橙子と付き合ってこられたと感謝したいぐらいだ」
冗談めかして、そんなふうに笑うのだ。
「えぇー、会えなくなるの、敦史くんはイヤじゃないの?」
「もちろん、イヤだよ。でも、こうして学校では橙子と話せるし」
「えぇー……」
この人は、どこまでも心が広い。頼もしくて、男らしい。けど、今はそれが不満だ。
確かに敦史は、中学に入ってから変わった。
時々、とっぽい恰好をした同級生と歩いているのを見る。
金色に染め、キザに見える髪型。時折漂う香水の匂い。
校舎の裏でタバコを吸っているという噂も聞いた。
でも、橙子に対しては、優しいお兄さんのままだった。
タバコを吸いに裏に行き、たまたま下級生のいじめを目撃した時など、いじめていた3人に、
「いじめなんて一番弱いヤツのすることだ!」
喧嘩は地域で一番強いという敦史の一喝以来、校内のいじめは消えてなくなった。
尖っていても、弱い方の味方をしてくれる、そんな優しいお兄さんなのだ。
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