4.ふたたび東屋

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4.ふたたび東屋

 待ち遠しかった1週間が過ぎ、2度目の月曜日が来た。  今日の空は、どんより曇り、うすら寒い。  東屋に入るや、二人は早速、コンビニで買ったばかりのカイロを、お互いの腰の辺りに貼り合う事にした。  先に貼ってもらう橙子。 「いい?捲るよ?」  敦史がちゃんと断ってくれる。 「うん」  若干の緊張。  彼の手が、学生服を捲り上げ、カイロが下着に優しく押しつけられる。 そして彼はすぐに学生服を下ろし、ポンとカイロの上から叩き、 「はい!」 「ありがとう。じゃあ……」 「おっ、頼む」  背中を向けた敦史の学生服を捲り上げ、同じように下着に貼る。  手でさするようにして、カイロを押し付ける。彼の無骨な体を感じて、 「硬ぁい」  思わず声に出た。 「ははは。男らしいだろ?」  振り返りながら、金髪の下の笑顔を向ける。  悪ぶった恰好をしてるけど、橙子にはいつも幼なじみのままだ。 「さ、腹も減ったし、食おうぜ」  二人は新聞紙の上に座り、サンドイッチを食べた。 「美味しいね」 「そうだね。なんかいつもより美味しいな。同じコンビニのサンドイッチなのに」  考えてみれば、二人だけの世界で一緒に何かを食べるのも、初めてだった。  それから、橙子はホットティー、敦史は缶コーヒーを飲みながら、1週間前と同じように、思いつくままに話をした。 「いつかここで、ホントに二人のお店を持ちたいなぁ」  壁の隙間に目を当て、遠くの山並みを見ながら橙子が言った。先週も話した夢。 「じゃあ、目標にしよう」  敦史も真似して、隙間に目を当てる。 「目標?」 「そう。目標にすれば、実現に近づくんじゃね?」 「そうだね」 「それに、この景色、二人だけの秘密じゃあ、もったいないぜ」  敦史はそう言いながら、眺めに夢中になっている。  幼い頃から、二人でよく山に登り、見慣れた景色なのに、こうして東屋の細い隙間から二人だけで眺める景色は、特別な気がする。 「それじゃあ、10年後でどう?」 「10年後……俺は25歳か。いいんじゃね」 「じゃあ、10年後に決定!」 「おっ。2014年11月20日!」 「えっ?……今日は11月27日だよ?」 「初めてここに来た日が良くね?」 「あっ……」  そう言うことか。  二人で初めて、ここを秘密の場所に決めた、記念の日。 「よし、頑張る」 「俺も」  二人は見つめ合って微笑む。それから敦史が、「その前に……」と言って、新聞紙の上に座り直しながら、 「橙子は、M高に行くの?」  と訊く。橙子も新聞紙の上に戻り、 「まぁ、受かればね」 「でも、橙子なら大丈夫だろ」 「そんなこと、分かんないよ」 「家庭教師、来るようになったんだろ?」 「そうだけど……」  と、苦笑いを浮かべた。
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