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「みかん山が火事だって!?」
玄関から父が飛び出してきた。
母親も続いて出てくる。
父が橙子の横で、中腹の炎を見ると、慌てて家の中に戻って車のキーを取ってくると、着の身着のまま軽トラに乗り込む。
「お父さん、私も連れてって!」
橙子が、サンダル履きのまま、助手席に乗り込もうとすると、
「お前は家庭教師があるだろ」
苛立つ父の言葉に、橙子は首を振り、
「私も行きたいの」
と言って、助手席に座った。
仕方ない、というように、父が、
「すぐ戻りますんで、中で待ってて下さい」
飯田に告げ、スタートさせた。
現地に着き、軽トラのドアを開けるなり、きな臭さが鼻を突いた。
燃えていたのは、やはり東屋だった。
幸い周りのみかん畑への延焼はなかったため、父と橙子が着いた時にはほぼ下火になっていた。
「まぁ、使っていない小屋だったのが、不幸中の幸いだ」
消防隊員の作業を見守りながら、父が呟く。
たまたまコンビニに車を止めた客が異変に気づき、すぐに通報してくれたため、被害は東屋だけに止まったのだ。
「しかし、なんでこんな所から火が出たんだ?」
父が怪訝そうな顔で、また呟く。その隣で、橙子は少し安堵していた。
(良かった。タバコ、止めさせておいて)
そう。敦史のことだ。
(もしあの日でタバコを止めていなかったら……)
敦史が疑われていたに違いない。
そして、二人の秘密も……。
東屋が焼失したショックよりも、今は、ホッとする気持ちの方が大きかった。
「橙子はもう帰りなさい。大事な勉強があるだろ。歩いて帰れるね」
父の声に、我に返った橙子は、頷いて現場を後にした。
「大丈夫?橙子ちゃん」
自分の部屋に戻ると、リビングで母と待っていた飯田が後から入って来て、心配そうに訊いた。
「はい。すみませんでした。勉強、始めます」
「その前に、これ食べなよ。お腹空いたんじゃない?」
飯田はそう言って、コンビニの袋を手渡してきた。中には菓子パンと紅茶のペットボトルが入っている。
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。後で休憩の時にいただきます」
今ここで、飯田の前で飲み食いする気にもなれず、そう言って問題集を開いた。
その夜から翌日は、平穏に過ぎた。
ところが……。
翌々日になって、事態が急展開を見せていく。
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