2- setting

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「あ~彼氏欲しい」  大学のカフェでお昼ご飯を食べていると、向かいの席に座って同じくご飯を食べていた会田美織が唐突にそんなことを言いだした。  それまで普通に食べていたオムライスのスプーンを持つ手を、がしゃんとテーブルに置いてまで。 「聞いてる?つかさ」  美織が思い出したようにそれまでの会話の流れもぶった切ってそんなことを言うのは、ここ最近はよくあることだ。あたしは驚きもせずチキン南蛮を咀嚼し続けた。 「聞いてるよ。彼氏欲しいんだよね、夏までに」  美織は同じ専攻に通う大学からの親友で、あたしが上京してきて一番仲のいい友達だ。地元出身で大学内にも知り合いが多い美織が、周りに知り合いがおらず一人ぼっちだったあたしに声を掛けてきてくれた時は、本当に天使かと思った。実際、美織は華やかな美人でおしゃれだ。  知り合いも多くて美人なのに、彼氏が1年もいないのは、確かにおかしい。 「先週コンパ行ったって言ってたじゃん。いい人いなかったの?」  味噌汁をずず、とすするのを、美織が何か言いたげに見てくるが、結局それについては言わず、 「いなかったよ…。まあ相手の幹事からして微妙だったしね…」  飲み会を頼んだのは美織の方だと聞いていたけれど、ひどい言われようだ。 「美織は理想が高いからなあ」 「つかさはその後、どーなのよ」 「その後って?」  美織がコンパに勤しむ間は、あたしはずっとバイトに勤しんでいるだけだ。キョトンとして聞き返すと、美織がいよいよスプーンを置いて詰め寄ってきた。 「稜平さんとだよ!バイトずっと一緒なんでしょ?あれから二人でご飯行ったりとか」 「あ、ああ、うん、最近はバイト終わりに2人でご飯行ってるよ」  恋バナが好きな美織には、早々に稜平への恋心を打ち明けさせられた。でも、夏までに彼氏が欲しい美織と違って、あたしは稜平と夏までにどうこうなりたいとは思っていない。  稜平と2人でご飯を食べに行くとはいえ、そんな関係の女子はあたし以外にもいるのだ。2人で話していても、稜平の口からは結構な頻度で「女友達」の名前が出るから。それ以上に男友達も多いけれど。あたしが特別な存在じゃないことは、仲良くしているがゆえに、自分が一番よく分かっている。  バイト先の仲のいい後輩。多分、稜平はあたしのことをそう思っているだけ。 「告白は?しないの?」 「しても上手くいく気がしないなー…」  もはやオムライスのことなど忘れたかのように聞いてくる美織につられて、あたしも食べるのをやめて箸を置いてしまった。 「そうかなあ。稜平さん、つかさのことめっちゃ気に入ってると思うけど」 「そうかな。普通じゃない?」 「何食ってんの?」  急に会話の中に別の話題が降ってきて、あたしと美織は通路に立ち止まった人影を見上げた。  3人組の男の真ん中に立っていたのは、リュックを肩にかけた稜平である。 「りょ、稜平さん」  思わずびっくりして腰を浮かしかけて、我に返って椅子に座り直した。 「今日日替わりチキン南蛮かー。俺もそれにしようかな」  あたしの食べかけのお皿を見て、稜平がにこにこしながら話しかけてくる。 「稜平さん、今からお昼?」 「そー。ゼミが長引いてさ。あ、つかさ今日バイト?」 「うん。5時から」 「俺も。じゃあまた後でな」  そこで会話が終わるはずだったが、立ち去りかけた稜平たちに、美織が声を掛けた。 「稜平さん!」  いつも大学内で会うと話をするのはあたしと稜平で、美織がたまに会話に入ってくることはあってもしっかりと喋ったことはない。美織が稜平を呼び止めたのは初めてで、あたしも稜平もびっくりして美織を見た。 「お願いがあるんです」  気が付けば、美織は椅子から立って稜平を見詰めている。その必死な目つきに、稜平が「お、おお」と気圧されたような返事をした。 「コンパ開いてください」
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