3- 飲み会

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3- 飲み会

 美織が稜平に頼んだコンパは、その翌週に開催されることになった。  美織が頼んだくせに女子の幹事はあたしになっていて、稜平とお店や時間のやり取りは全部あたしがやる羽目になってしまった。  美織曰く、「幹事同士で話すきっかけできるじゃん」とのことだが、稜平の口から「女子の好み教えて~」などと聞かされるのは物凄く複雑な思いだった。  稜平も新しい出会いが欲しいのかと、何度も聞きかけたが、そんなことは結局口に出してはきけなかった。  無難に、落ち着いて話ができるというので、場所は駅前の個室居酒屋にした。  金曜の夜、店に先に着いていた男子を見て、美織があたしの耳に「やった!あたり!」と声を掛けてくる。何のことかと思えば、「お目当てが来てました」とのこと。  お待たせしました、と言いながら、最後尾に部屋の中に入ると、一番手前に見知った男の顔があった。  ドラッグストアでいつも決まった水だけを買っていく、あの彼だ。  <――えっ!?>  と思ったが、無表情を崩さない相手に合わせて、無反応を心がける。  とりあえず席に座ろうと思って一番入り口に近い席に着くと、自動的に目の前の席には彼が座っている。動揺しすぎて、何も考えずに座ってしまった。  <え?え?なんでいるの?稜平さんの知り合いだったの?>  稜平にこっそり聞こうにも、稜平はテーブルを挟んで一番遠い対角線上に座っている。視線のやり場所を探してキョロキョロしてしまう。 「えーと、みんな揃ったので自己紹介からー。まず俺ね」  稜平は、人が多い飲み会に慣れているのか、さくさくと話を進めている。 「M大商学部3年の篠宮稜平です。そこのドラッグストアでバイトしてます。趣味はライブ観戦です。ハイ次」  にこにこと笑って話す姿は、さすが友達が多いだけあってとても感じが良くていい。好きだな、と思うと同時に、この中の女子が何人か好意を持ってしまわないかハラハラする。  稜平の次とその次に自己紹介した人は、稜平と同じ学部の3年生で、類友と言うべきか、二人ともかなり気さくで爽やかな感じの好青年だった。――そして。 「滝川暎臣(あきおみ)です。理工の3年。幹事の稜平とは高校からの付き合いです」  女子から凝視に近い熱視線を送られて、誰とも視線を合わせずに伏し目がちになって自己紹介した。レジで聞くのと同じ、低くて、少しハスキーなのに甘い余韻が残る声。他の3人と学年が一緒と言うのが信じられないくらい、落ち着いていてクールだった。  <こんな飲み会にも来るの?>  稜平からどんな風に誘われたのかは知らないけど、知らない女子が来る飲み会なんかには、到底来そうにないタイプなのに。 「知ってますー。滝川さん、話してみたかったから嬉しいです」  美織が早速滝川さんに食いついている。美織の「お目当て」とは、彼の事だったみたいだ。  稜平が全体にまんべんなく参加できるような話題を振りつつ、隣の男子がそれを盛り上げている。稜平さんはすごいな、と思いながらぼんやりとそれを見ていると、美織に脇をつつかれた。 「今日来れてラッキー。ほんとイケメン、滝川さん」 「…なんで美織、滝川さんのこと知ってるの?」 「理工にいる地元の先輩が言ってたの、超イケメンがいるよって。そしたら稜平さんと地元同じって聞いたから、もしかして…?と思って」  それはすごい偶然が重なったものだ。あたしはあんぐりと口を開けて、滝川さんにはしゃいで話しかける美織を見た。  地元出身で、他学部にも知り合いがいる美織だから知りえた情報だ。あたし達が所属する専攻は女子だらけのコースなので、同じキャンパスを歩いていてもなかなか男子と話す機会がない。バイトやサークルで一緒にならなければ、一日話すこともないくらいだ。  美織のカンとネットワークに感心しつつ、あたしは末席でみんなの盛り上がりを見詰めた。 「稜平さんとは高校でもよく遊んでたんですか?」  美織に質問されて、滝川さんがビールのグラスを片手に「うん」と答えている。居酒屋にいるとは思えないくらい、クールでスマートな空気が彼の周りを包んでいる。  真正面のあたしよりも、美織が率先して滝川さんに話しかけるので、あたしは邪魔をするまいと黙ってお酒を飲んだり、料理を食べたりした。  美織と話す滝川さんは、当たり前だが会話に加わらないあたしとは目が合わない。  <初対面の振り…でいいんだよね>  美織にも、滝川さんがバイト先によく来るとは言っていない。滝川さんと初対面じゃないことを知っているのは、誰もいないのだ。その方が便利だと、滝川さんは判断したのかもしれない。 「理工学部で何を専攻してるんですか?」 「AI知能について」 「えーっ!なんかかっこいい!」 「そう、なんかかっこいいから」 「やだ滝川さん、ノリいいんだ」  美織の、イケメンを前にした時特有の艶っぽい笑い方。顔には出さないけど、内心で苦笑する。美織の、自分のことを綺麗と分かっていて、それを良く見せる方法を心得ているところが逆にすがすがしくて好きだ。メイクや服もフェミニンで色っぽいのに、中身はどこか男前なところがある。  <美織と並ぶと、美男美女でお似合いかもな…>  地方から出てきた、未だに方言が抜けきらないあたしとは、住む世界が違う。 「――つかさ」  ふいに稜平が、対角線の席から声を掛けてくる。我に返って顔を上げると、一番遠い席から稜平がにこにこした笑顔で見つめてきていた。え?と思うと、向こうの席の男女4人が全員こちらを見ている。 「神戸のいいとこ教えてってさ、今度遊びに行くんだって、こいつら」  と、稜平が隣の男子2人を指さす。 「あ、ああそうなんだ。えっとね、とりあえずモザイクには行くべきです」 「モザイク?三ノ宮から近い?」  微妙に遠いです、と笑いながら言うと、男子2人が「まじかよ」とヤジを入れてくる。  そのまま全体で神戸の観光地をゆるく紹介したり、そんなあたしにツッコミを入れられたりして、飲み会はほのぼのと進んでいった。
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