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森の外
「私の名前は、トリスタン・トムリンソンだ」
妖精の家でトーリが本当の名前を叫ぶと、突然辺りが暗くなり、ロウソクを吹き消したように妖精達の姿も消えた。直後にものすごい嵐が来て霧を吹き飛ばしていく。
◇
気がつくと住み慣れた町の外れ。
しかしどうにも町の姿が様変わりしている。
道路はこんなに整備されていただろうか。
町の入り口の宿屋は石造りではなく木造だったような……。
何より驚いたのは、馬車の代わりに巨大な鉄の乗り物が猛スピードで町中を横切っていったことだ。
(まだ夢が続いているのだろうか……)
そんな風に考えながら自宅へ帰る。トーリの住んでいた家は変わらずそこにあった。
窓から家の中を覗くと懐かしい妻の姿が見えた。
「やあ、エミリー!帰ってきてくれたのかい!」
トーリは少し涙目になりながら、玄関の扉を開けて声をかけた。
「どちら様ですか!?」
妻のエミリーは驚きと困惑が入り混じる表情を浮かべている。
「何を冗談……ああ、しばらく家を出ていたことを怒っているのか?悪かったよエミリー。私は君が心を込めて作ってくれた食事に感謝を伝えたこともなかった。でも分かったんだ。私にはエミリー、君が必要なんだ」
話していると、奥から見知らぬ男性が現れた。
「なんだこの男は。おかしな事を言って何か押し売りする気か?」
「なっ……エミリー、君、君は、もう他の男と一緒になってしまったというのか!?」
トーリは男を無視してエミリーに訴えかける。
「あの、すいません。人違いだと思います。私はアンナと申します」
なんだって?
「エミリーは、私の祖母の名前です……」
「そんな……まさか……そんなことが……」
トーリはアンナの夫に無理矢理追い出され、途方に暮れて町中を幽霊のように歩きまわった。
途中ですれ違った老婦人から「パパ?」と声をかけられたことにも気付かずに。
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