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しかし扉が開いたのに、それ以上の反応がない。
「ごめんください」
もう一度声をかけた。
もしかすると耳の遠いおじいさんかおばあさんが住んでいるのかもしれないと思い、さっきよりも少し大きな声で。
けれども返事はない。
「あのぅ……」
小さな家の玄関扉は、トーリの顎ほどまでしか高さがない。
失礼と思いつつ開いた隙間から中を覗き込んでみた。かがまないと頭をぶつけてしまう。
「ごめんください。道に迷ってしまって……」
帰り道を教えて欲しいと言いかけて、自分は何処へ帰るというのだと思い言葉を飲み込んだ。
「……できれば少しの水と食べ物を分けてもらいたいのです」
やっぱり返事がない。
中で何か作業中なのだろうか?
中からは食欲をそそる良い香りがしてくる。キッチンで火を使っていて手が離せないのかもしれない。
「お邪魔します」
トーリは扉をくぐり家の中へ足を踏み入れた。
中は外から見た想像よりも広く感じた。
とはいえ全体的には一目で見回せる。
玄関を入って左側にはダイニングテーブルと複数の椅子。その奥にキッチン。
反対側の玄関から右側は寝床らしく、小さなベッドが5つも並んでいる。
家の中には誰もいない。
ダイニングテーブルの上には、美味しそうな食べ物がずらりと並んでいる。
それを見た途端、口の中に唾がジュワジュワと滲み出て、ゴクリと喉を鳴らした。
お腹の虫も大合唱を始める。
野菜やキノコがたっぷり入ったスープからは湯気が立ち上り、焼きたてのパイはサクサクと生地が香ばしそう。緑色のケーキや、果実を絞ったジュースもある。
食べてもらうのを待っているかのようにホカホカと香りが誘う。
人のものを勝手に食べてはいけないという理性よりも、腹を満たしたい本能が上回るのは簡単だった。
「あとで謝ろう」
お腹が空いたトーリは、目の前に並んだ料理を食べてしまった。
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