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どろぼうのタダ働き
トーリは、勝手にご馳走を食べてしまった罪を償うために、働くことになった。
薪を割って
火をおこして
煙突を掃除して
靴を直して
ペンキを塗って
次の日も、その次の日も。
妖精達から食べ物を盗んだ罪はとっても重い。
罰は、働くだけではなかった。
どんなに一生懸命働いても、お腹が空いてもごはんをもらえない。
けれども不思議なことに、どんなにお腹が空いても動くことができ、倒れることはなかった。
この家には不思議な力があるらしい。
昨日と、今日と、明日。
「さっき」と「今」と「あとで」が、ごちゃ混ぜなのだ。
妖精達は、自分達の美味しいご馳走を用意し、たらふく食べて、無くなったらまたご馳走を用意する前に戻る。
トーリもそんな不思議な家の影響か、どれだけ働いて疲れても、働く前のコンディションにすぐに戻る。
お腹が空いて我慢ができなくなると、お腹が空く前に戻る。
食べ物を必要としないタダ働き。
そんな日々が数週間続き、いや実際には時間がごちゃ混ぜで、どれだけ経ったかわからない。
夢にしてはとても長いように感じる。
トーリは悲しくなってきた。
もうずっと食べ物を食べていないのだ。
最後に食べた妖精達のご馳走は、正直言って味を覚えていなかった。あんなにお腹が空いていた時に食べたのに。
今思い出すのは、愛想を尽かされた妻の手料理。
美味しかった。
けれども、彼女にそれをちゃんと伝えたことがあっただろうか……。
気がつくと、トーリは泣いていた。
もうおじさんと呼ばれるほど歳を重ねた大人だけれど。
ひとたびポロリと涙が落ちたら止められず、しまいにはワンワン泣いた。
「どうして泣いているんだい?」
どこから聞こえたかキョロキョロと辺りを見渡すと、妖精の家のすぐ後ろにそびえる大きな樫の木があった。
そしてその木にはパッチリとした目と、口のような大きな穴があいている。
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