回想 ~中学三年生~

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回想 ~中学三年生~

 私と悠李は、卒業前のバレンタインに私が告白して始まった。  中学三年の時に同じクラスで隣の席で、ワンドルファンという共通点があって。私が悠李を好きになるにはあまり時間はかからなかった。  その時の悠李はまだ背が低くて華奢で、見た目通りの高い声。『美少年』ってイメージで、陽キャの女子によく揶揄われていた。嫌がって反論するのも可愛いー、と言われて。  一方の私は地味で大人しい部類。休み時間はいつも机で本を読んでいるような子だった。  最初に話し掛けてくれたのは悠李。好きなもののことを仲良く話しているうちに、私は悠李のことを好きになっていた。こんな私が告白なんかしても迷惑だよね……と思いながらも気持ちが抑えられなくなり、 『ええい、どうせ高校は別なんだし振られてもすぐ卒業だし!』 とチョコを渡したら……なんとホワイトデーを待たずに悠李から交際を申し込まれたのだ。  その時の私の天にも昇る気持ちといったら。ずっと、母や姉に可愛くないと言われてきて、似合わないからと女の子らしいものを持たされていなかった。服もユニセックスなものだったし髪はショート。お前は可愛くないから女らしくしたって無駄なんだと言われ続けていた私に、彼氏ができたのだ。今の私はこの世の誰よりも幸せだ、と調子に乗っていた。  小学生の頃から、うちに遊びに来る友達はみんな、二歳上の陽菜を好きになる。人形のような可愛い陽菜、声も仕草も可愛い陽菜。女子も男子も、先生も近所の人も、みんなが陽菜を好きになった。私のことなんか誰も見てくれない、それが当たり前。 (でも悠李は違う。悠李は、こんな私のことを好きになってくれたんだもの。きっと大丈夫)  そう思っていたのに、ある日うちに遊びに来た悠李は……私が席を外していた間に陽菜とキスをしていた。 (え?)  部屋の入り口で思わず足が止まる。悠李の背中越しに陽菜の茶色い巻き毛が揺れていた。 「……何してるの?」  私が尋ねると悠李はぱっと身体を離した。  陽菜は私の目を見てにやっと笑う。 「なんでもなーい。さ、あとは若いお二人でどうぞ」  通学バッグを持ち上げると鼻歌を歌いながら自分の部屋に引き上げていった。
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