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「悠李……今、何してたの?」
「お姉さんが目に何か入ったって言うからさ、見てあげてたんだよ」
「そうなんだ……」
よかった、と思う一方で本当に? と思う気持ちが消せない。陽菜の、得意げに笑った顔がちらついて。
「あのさ……悠李。うちの姉って私と全然違うでしょう」
「ああ……? そうだな。言われなければ姉妹だと思わないかも」
「陽菜のこと、どう思う? 可愛いと思う?」
「あー、うん、そうだね。可愛い、かな」
悠李の頬はほんのり赤い。学校で、私の前でそんな顔をしたことはないのに。そのことがひどくショックだった。
そのあとの時間はなんだかぎくしゃくしたままで終わった。
「じゃあまた明日、学校で」
そう言って帰っていく悠李。きっと、楽しくないって思っただろう。ほんとにゴミを取っていただけかもしれないのに、嫉妬して嫌な雰囲気にして。私はサイテーだ。
悠李が帰ると陽菜が私を手招きした。
「ちょっと月葉。私の部屋に来て」
神妙な顔を作っている陽菜。嫌な予感で心臓がバクバクする。
「月葉、あの子はやめたほうがいいわよ」
陽菜は耳打ちしてきた。
「えっ……どうして?」
「だってね、ゴミを取って、って言っただけなのに私にキスしてきたんだよ」
「嘘よ! 悠李はそんなことしない」
「ほんとだって。ほんのかる~くだけどね、唇が触れたの。年上に興味があったのかしらねえ。まあ、中学生ってエッチなことしか考えてないし、私の唇を見て一瞬ムラっとしたのかも」
(嘘。そんなの嘘だ)
だけど、私の脳裏には悠李の赤く染まった顔が浮かぶ。あれは、陽菜とキスしたから?
目の前にいる陽菜の唇は、私と違い綺麗にリップを塗ってプルンとしている。私から見ても可愛いと思うのだから悠李だって、もしかしたら。
「まあとにかくね、あの子背は低いけどイケメンだし、高校行ったらモテるはず。月葉みたいな陰キャはすぐ捨てられるよ。だったら傷つく前に別れたほうがいいって。これ、経験豊富なお姉さまからの忠告」
陽菜は私の鼻を指でぴんと弾くと、機嫌よさそうに部屋を出て行った。
(きっと嘘に決まってる。……だけど、陽菜の言ってることも一理ある。悠李は絶対高校でモテるだろうし、そうしたら私なんかに見向きもしなくなるだろう。私はそれに耐えられる?)
完全に自信を無くした私は悠李に別れを告げた。理由を聞かれても何も言わず、そのまま卒業式を迎えた。
それから私たちは二度と会うことはなかった。
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