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「ごめん、月葉……お前のことが嫌いになったわけじゃないんだ。でも命を授かった以上、放り出すわけにはいかない。だから、許してくれ」
しばらく沈黙が流れた。彼女が鼻をすする音だけが響く。
「いいわ」
ずっと俯いていた真吾が顔を上げる。
「月葉……」
「別れましょう」
そう言うと同時にコーヒー代を置いて席を立つ。立ち上がろうとした真吾の腕を彼女の手が掴み、行かせないというようにもう一度座らせた。
自分でも驚くほど冷たい目でその様子を見ながら私は出口へと向かう。一刻も早くこの場を立ち去りたくて。
カランという音とともに外へ出た。そのまま、足早に駅へ向かう。頭の中にはさっきの二人の様子がぐるぐると渦巻いていた。
(23歳? 5歳も年下なんだ。やっぱり若い子のほうがいいの? 妊娠している子をわざわざ同席させるなんて、自分ひとりでは別れ話もできないってわけ? そんな情けない男だと思わなかった。別れて正解よ)
溢れる怒りと裏腹に勝手に流れてくる涙を手の甲で拭いながら、私は人混みに紛れていった。
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