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週末、私は母と姉が暮らすマンションに出向いた。
私が社会人になってからはこうして時々母に呼ばれることがある。そんな時はたいてい、お金の無心だ。私も余裕があるわけではないけれど、断り切れずにいつも三万ほど渡している。
ずっと専業主婦だった母は離婚後にスーパーでパートを始めた。
離婚の際に父は家族で住んでいた家を売却してそのお金を半分渡しているし、年金もちゃんと分割手続きをしている。パート代と合わせれば暮らせないことはないと思うのだけど、姉の陽菜が全然お金を入れないので生活費が少し足りないのだという。
「ほら、陽菜は可愛いから服やお金に気をつかわなきゃいけないでしょ。月葉はそういうの無頓着だからその分お金余ってるじゃない。家賃もいらないんだし」
いつもの言い訳を聞きながら封筒に入れたお金を渡す。お父さんには黙っててね、と言われるのもいつものこと。
母はルッキズムの塊のような人で、昔から私は姉と比べられてきた。母にそっくりで目が大きく人形のように可愛らしい姉を母は猫可愛がりし、父に似た地味な顔つきの私のことは連れて歩きたがらなかった。子供心にも傷ついてきたし、今でもそうだ。
それでも、こうして呼ばれると応じてしまうのはなぜなのだろう。いまだに無意識に母親の愛情を求めているのかと思うと我ながらぞっとする。
「ただいまー。月葉、来てるのー?」
仕事を終えた姉が帰ってきた。姉の陽菜は私の二歳上、今年30歳だ。旅行代理店に勤めている。
帰るなりテーブルの上の箱を何も言わずに開ける。私が姉に指定された店で買ってきたケーキだ。
「あ、頼んでおいたケーキじゃないじゃん! 私、チョコのやつって言ったよねえ?」
「売り切れてたの。その代わりその店で人気ナンバーワンのマロンにしたんだけど」
「チョコの気分だったんだってば。他の店のでもいいから買ってきてくれたらよかったのに、気が利かないなあ」
「そうよねえ。月葉は言われたことしかできないものねえ、昔から。顔も性格も、ほんとお父さん譲りなんだから」
そっと心の中でため息をつく。私は昔からこの二人のことが苦手だった。
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