〜悠李side〜

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〜悠李side〜

 その女の子は、いつも寂しそうな表情をしていた。  中学三年の時に同じクラスだった英月葉。身長は俺と同じくらい(いや、それはちょっと格好つけてるな。実際は俺のほうが少し低い)で華奢な体型。大人しい彼女はいつも教室の隅で本を読んでいた。  幸い、いじめなど無いクラスだったので俺や月葉みたいな地味なタイプも生きていけた。多少からかわれることがあっても、基本放っておかれたからだ。  二学期の席替えで、俺は月葉と隣同士になった。ある日、何の本を読んでいるのか気になって話しかけたことがある。 「『炉辺荘のアン』よ」 「何それ?」  『赤毛のアン』なら俺でも知っている。しかしその本には続きがあり、10巻まで出ていることは知らなかった。 「私、赤毛のアンシリーズが大好きで。全巻、何回読んでも飽きないの」  そう言って笑う月葉の表情はいつもと違って柔らかく優しく、俺は素直に『綺麗だ』と思った。そして、それからは隣同士という利点を生かして月葉と仲良くなっていったんだ。 「私、ワンドルが好きなの」  月葉がそう言うから慌てて全アルバムを借りに走ったっけ。月葉の好きなもの、全て知りたくて。  相変わらずクラスメイトの前では表情の乏しい月葉だったけど、俺にはどんどん明るく可愛い顔を見せてくれるようになった。俺だけが知ってる月葉。それがとても嬉しかった。  いつ告白しよう。受験が終わってからだろうか。悩んでばかりだった俺を、月葉はひょいと超えてきた。バレンタインに彼女から告白してくれたのだ。 (月葉も俺のことを……? やばい、すげえ嬉しい)  俺は舞い上がった。ホワイトデーなんて待ちきれなくて、すぐに返事をした。 「俺も月葉のこと、好きだったんだ。俺と、付き合ってほしい」  その時の月葉の赤く染まった頬、キラキラした瞳、嬉しそうな笑顔。全部覚えてる。  俺は幸せだった。受験が終わるまでデートは無しにしようって二人で約束して、学校の図書館で勉強を一緒に頑張った。  そして受験が終わり合格発表と卒業式を一週間後に控えた日曜日。俺は月葉の家に遊びに行って……月葉の姉に嵌められたんだ。何もしていないのに、キスしたなんて言われて。もちろんその時はそんなこと知る由もなかった。  その翌日突然月葉から別れを切り出され、何度訊ねても理由を教えてくれない。納得のいかない俺は卒業式の日まで粘った。だけど別れが撤回されることはなく、式の当日も月葉は逃げるように学校から立ち去ってしまった。 (なんでだよ、月葉……!)  
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