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当時、俺はガラケーを持っていてLIMEやメールをすることはできた。でも月葉は中学のあいだは持たせてもらえないと言っていて、連絡手段は家の電話しかなかった。
卒業後一度だけ、家に電話を掛けたことがある。番号は、以前月葉に聞いていた。
「もしもし~?」
(月葉の声じゃない。お姉さんか)
「あの、鷺宮と申しますが月葉さんはいらっしゃいますか」
「あー、このあいだの男の子か。悪いけど、あの子、もうキミのこと好きじゃないんだって。迷惑だから二度と連絡しないで」
気怠そうにそう言ってガチャンと電話を切られた。ツー、ツーという音が受話器から流れるのを俺は呆然として聞いていた。
(もう好きじゃない……だから別れたのか、月葉……)
馬鹿な15歳の俺は姉の言うことを信じた。そしてもうダメなんだと諦めて、それ以上月葉に連絡することはなかった。
そして高校へ進み、俺は急に背が伸びて女子から告白されることが多くなった。
だけど俺の中では月葉に振られたショックが大きすぎて、誰かと付き合うのは怖かった。それに、月葉のことが忘れられなくて……誰のことも好きになれなかったのだ。
(あんな振られ方したのにな……)
月葉と過ごした教室、一緒に聴いたワンドル、折りたたんだ手紙やプレゼントされたMD。忘れようとするたびに思い出してしまう。
(俺、もしかしてこのまま一生ひとりかも)
危機を感じた俺はとりあえず、勉強に打ち込んだ。何かをやっていれば気が紛れる。友人とエコノミクス甲子園に出たのも、そのためだ。
やがて公認会計士を目指すという目標が明確になってきた。
(いつ月葉と再会しても恥ずかしくないように、いい仕事に就いておこう。月葉に、逃した魚は大きかったと思わせたい)
だけど、寂しさだけはどうすることもできなかった。そんな時は月葉と過ごしていたはずの未来を想像する。初デートはここで、クリスマスはこう過ごして。バレンタインは月葉に告白された記念日だから大々的に祝って……。
(俺ってずいぶん痛いやつだな)
わかってはいるけれど妥協ができなかった。誰に告白されても、付き合う気になんてなれなかったのだから。
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