心を守ること

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 それからは金曜日にマンションを訪れて土日を一緒に過ごすようになった。悠李が疲れていたら家でまったりと映画を観るし、元気だったら食事に行ったりデートスポットに行ったり。普通の恋人同士として楽しくお付き合いしていた。  こうやって一緒にいる時間が増えると、知られたくないことも知られるようになる。私にとってそれは、母からお金の無心をされていることだった。  ある土曜の夕方、出張から帰ってくる悠李を部屋で待っていて、家で食事をしてそのまま夜遅くまで起きていた。そのせいで翌日私たちは昼までゆっくりと寝ていたのだけど、その時に母から電話がかかってきたのだ。 「……もしもし……?」 「もしもし! 月葉、寝てるの?」  目が覚めたばかりでまだ頭が働いていなかった私は、うっかり電話に出てしまった。突然聞こえてきた母の大きな声に、一瞬で意識がはっきりし背筋が伸びる。 「何よ、寝ぼけた声でだらしない。休日だからってこんな時間まで寝るなんて。陽菜はもう仕事に行ってるっていうのに」 (だって陽菜はもともと土日は出勤日だもの……私だって平日はもっと早く起きてる)  だがそんな口答えをしたって話が長くなるだけ。私は言いたいことをぐっと腹の中に飲み込んだ。 「今からこっちに来てちょうだい。いつもより多めのお金を用意してきて」 「多めの? どうして?」 「どうしてでもいいでしょう。そうね、10万くらいあると助かるわ」 「そんなに……? 無理よ。私にだって生活があるわ」  いつのまにか悠李が身体を起こして、私たちの会話をじっと聞いていた。母の声は大きくてよく響く。スピーカーにしなくても、周りの人にまで内容が聞こえてしまうのだ。 「あんたは父親と暮らしてるんだから生活に不安はないでしょう? 母親が苦しい思いをしてるっていうのに、助けてあげようという優しさはないわけ? あんたを世話して育ててやったのは誰だと思ってるのよ。あんたみたいな不細工で可愛げのない子供を、可愛い陽菜と分け隔てなく育てて社会に出してやったんだから。その恩を返していくのは当たり前でしょう!」  スマホを持つ手が震える。母と私が一緒に暮らしたのは高校2年まで。しかもずっと陽菜と比べられていて、可愛がられた記憶は無い。大学の学費だって出してくれたのは父で、母からは入学を祝う言葉すらもらえなかった。それなのにこの人は、私に恩返しをしろと言っているの?  すると悠李がスマホを私の手からさっと取り上げ、話し始めた。 「どうも。お話し中、失礼いたします」 「はあ? あんた誰よ?!」 「月葉さんとお付き合いさせていただいてる者です。どうやらあなたは月葉さんにとって害がある人物のようですので、これ以上彼女に連絡を取らないでいただきたい」
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