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「他人が何を勝手なことを! 私とあの子は親子なのよ! 一生、縁が切れるはずないでしょう! 早くあの子に代わりなさい!」
「毒親とは距離を取らなければいけませんからね。では、失礼します」
「誰が毒親ですって! 待ちなさ……っ」
悠李は電話を切った。
「月葉、着信拒否していいよね」
「えっ……でも……」
しかし悠李は私の返事を待たずにスマホを操作し、母の番号を着拒にした。
「LIMEも繋がってるならブロックして。いい機会だからお姉さんのも」
悠李の顔が怖い。私は震えながら二人の連絡先をブロックした。
「悠李、私に怒ってるの……?」
すると悠李はびっくりした顔をして、私をぎゅっと抱きしめた。
「ごめん、怖がらせてしまった? 月葉に怒ったりしてないから、怯えないで」
私は、ずっと母と姉の不機嫌にさらされてきたせいか『怒った声』『怒った顔』が怖くてたまらない。
悠李は私の髪を優しく撫でて気持ちを落ち着かせてくれた。
「俺が怒っているのは君の母親にだよ。たとえ君と血が繋がっているとしても、あんな人を俺は認めたくない。月葉にそんな悲しい顔をさせる人間なんて、絶対に月葉の周りから排除してやる」
「でも……お母さん、お金がなかったら……困るかもしれないのに……」
ばかみたいだってわかってる。頭の中では母が浪費してるだけだと理解してるのだ。搾取されてるのに、それでも頼られて嬉しいと思ってしまう気持ちが少しだけあるのは事実だ。
静かに涙を流す私の頭を撫でながら、悠李は優しく、諭すように話す。
「月葉が時々話してくれる子供の頃のことや今の母親や姉がしていること、それらを合わせて考えると……やっぱり君の母と姉はおかしいと思う」
「おかしい?」
「ああ。彼女たちは自分の価値を高めるために誰かを下げることを必要としている。つまり君のお父さんと、君だ」
「お父さんと私を貶すのはお母さんにとって必要なことなの……?」
こくりと頷く悠李。
「自分がちっぽけな存在だと思いたくないから相手を否定し、ダメな奴だと罵って尊厳を奪って従わせる。搾取するだけで相手に与えることは決してない。そういう人のことを自己愛の強いテイカーっていうんだ。ギブ&テイクのギブをしない、奪うだけの人間。そんな人とはね、付き合うだけ無駄なんだよ。反省することはないんだから」
「じゃあ、いつかは私を認めてくれる……そんな日は永久に来ないってこと?」
「きっとね。月葉、君は素敵な女性だ。あんな人に認められなくたって、君の価値は損なわれない。だから関係を断とう。お父さんにも、今までのことを正直に話すんだ」
母に口止めされていたからだけではなく、父を心配させたくない、その思いで私は母とのことを黙ってきた。だから父は、今は私と母の関係が良好なのだと思っている。
「正直に……言ってもいいのかな」
「いいさ。お父さんは月葉の味方だ。もちろん俺も」
「悠李……」
私は悠李にしがみつき声を上げて泣いた。子供の頃、泣きたくても泣けなかった分を取り返すように。
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