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「……そうだったのか……」
悠李に助けてもらいながら全てを話し終えた後、父は手で顔を覆い辛そうに俯いた。
「すまん、月葉。お前がそんなに辛い思いをしていたなんて。やはり、会いに行かせるんじゃなかった……」
父母が離婚した時、私たち姉妹はもう小さい子供ではなかった。だから別れて暮らしても会いたい時には自由に会う、そういう約束だった。
しかし陽菜は父に会おうとせず、父からの連絡も全て無視。着拒もされてしまった父は、陽菜と全く連絡は取れなくなった。
一方私も母に会いたいとはなかなか思えなかったし、母からも連絡はなかった。もうこのまま会うこともなくなっていくんだろうな、と思っていたのだけれど。
私が就職して社会人になった時、突然母から連絡があった。就職祝を渡したい、と言って。
『お父さん、お母さんがこう言ってるんだけど、どうしよう』
『月葉が母さんに会いたいなら父さんに遠慮せず行ってきていいんだよ。ただ、何か嫌なことを言われたなら必ず父さんに教えて欲しい』
『うん……わかった』
私ももう22歳の社会人だ。母に何か言われたからってやられっぱなしにはならない。そう思って会いに行った。メイクも慣れたし少しは外見にも自信が持てるようになっていたから。
だけど、やっぱり認めてはもらえなかった。
『あらやだ。この子ったらまだ全然垢抜けないわね』
開口一番そう言って鼻で笑われた。
『そんな見た目でよく会社に内定もらえたわね。何かの間違いじゃないの? え? 彼氏もいない? 相変わらず鈍臭いわね。陽菜はいつもイケメンの彼氏を連れてくるわよ。会社でも可愛がられていてね、あの子がいると商談がまとまるんですって』
陽菜を持ち上げ、私をこき下ろす。5年前と何も変わらない。
(もう帰ろう……)
私が立ち上がると、母は祝儀袋を渡してきてこう言った。
『初給料は親にプレゼントするものよね。楽しみにしてるわ』
家に帰ると父は心配そうに様子を聞いてきた。
『どうだった? 何か言われたか?』
(お父さんに心配かけたくない。今度はお金を取られることになりそうだなんて)
『大丈夫。お母さん、お祝いもくれたよ』
『そうか。母さんもお前に会いたかったのかなぁ』
ホッとした様子の父を見て、これでよかったんだと思うことにした。祝儀袋の中にはシワシワの千円札がニ枚、入っていた。
それから、ボーナスの頃に必ず連絡が入るようになった。そして徐々にボーナス時期以外にも呼ばれるようになり、その度に心をすり減らしながらお金を渡していた。
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