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父はずっと母からモラハラを受けていた。お見合いで結婚した父のことを、顔も性格も陰気だと言って母はとても嫌っていた。
姉は母と一緒になって父を嫌い完全に無視。家の中はいつも冷たい雰囲気だった。
父方の祖父が亡くなり祖母が一人暮らしすることになったのをきっかけに、父は離婚して祖母と同居することを決意。私は大好きな父についていくことを選び、この二人と離れて暮らすようになった。
私も父もそれ以来、美味しい空気が吸えるようになった。この人たちと暮らすことは、私たちにとって海の中で暮らすようなものだったから。
「そういえばさあ、月葉、彼氏と仲良くやってるう?」
文句を言ったはずのケーキに手を出しながら陽菜が言う。
真吾に会わせる気なんて全くなかったのに、以前デート中にばったり遭遇してしまって仕方なく紹介したことがあった。そしたらその場で真吾本人に職場や年収などをいろいろ質問し始めて、恥ずかしかったのを覚えている。
「ああ……最近別れたの」
すると陽菜は目を輝かせて近づいてきた。
「まじ? やっぱね、ああいう雰囲気の男は浮気するだろうと思ってたのよ」
(浮気って……私、何も言ってないのになんでそう思うのかな)
楽しそうにケーキを頬張る陽菜。私の不幸が相変わらず大好物みたいだ。
「月葉もさ、もう少し見た目に気をつかったほうがいいわよ。男が浮気したくなるのは、女に魅力がないからじゃん。もう若くもないんだからさ」
「そうよ、月葉。陽菜と違ってあんたは顔も可愛くないし愛嬌がないんだから。せめて着飾るくらいしないと」
母まで一緒になって説教をし始めた。こうなると長くなる。私はローテーブルに手をついて立ち上がった。
「忠告ありがとう。じゃあ、私もう帰るね」
「せっかくアドバイスしてあげてるのに。そうやってすぐにイライラするから振られるんじゃない? とにかく見た目も性格も直さないと続かないわよ。ま、次があれば、だけど」
二個目のケーキを食べながら、背を向けてひらひらと手を振る陽菜。悔しいけど、私は黙ってその場から去ることしかできなかった。
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